よしまる

岸辺露伴 ルーヴルへ行くのよしまるのレビュー・感想・評価

岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023年製作の映画)
3.8
ボクの考えた病のひとつに、映画化の際にかかりやすい「劇場版症候群」というものがある。たぶん誰も言ってないしググッても出てこないからやはりボクが考え出したのだろう。

実写でもアニメでも、TVシリーズを映画化するときには制作陣も意気込むし、ファンも期待する。
おおきな予算を通すためには、劇場版ならではの派手さだとか豪華さ、あるいは目玉となる役者を用意することはもちろん、やはりふだんとは異なる出来事が起こったり、行かない場所へ行ったりすることでお金を出す人を説得する必要があるのかもしれない。

ここでよくあるのが、ふだんとは違うことをする、例えば外国へ行って言葉や文化の壁に遭遇する話、主役じゃない人が活躍する話、主役が誰かと入れ替わったり性格が変わってしまう話、いろんなバリエーションが過去にも使われてきたが、失敗しがち。

要するに観客が観たいものがわかっていない、これに尽きる。この病にかかった映画の例はいくらでも出てくるけれどそれは本題ではないので書かない。

ちな成功例もある。欧州旅行にいく「けいおん!」。テレビの物語をなぞらえながらブラッシュアップしたお手本のような劇場版。

長い前置きを経て、露伴先生へと話を進める。テレビもコミックも完走済、ただこのルーヴル編は未読のまま劇場にて鑑賞、そのあと原作コミックを読み、さらにアマプラにて再視聴。2度目で評価は上がったよ〜

世界観はテレビの延長で文句なし。泉くんの立ち位置も見事。
しかしながらまず前半に30分ほどある回想シーンが少々しんどい。演じたなにわ男子の長尾謙杜くんは悪くないのだけれど、現在の露伴先生とはあまりに雰囲気が違いすぎる。幼少期ならいざ知らず、もう既に漫画家を目指してる段階であんなにナイーブな子が、どこで現在のようなオレ様キャラに変化したのか??せっかく過去を掘り下げるのであれば、単にノスタルジックな映像で誤魔化すのではなくしっかり描いてほしかった。

木村文乃も良い女優さんだけれど、いかんせん荒木キャラらしくない。ジョジョの世界に居そうにない出で立ちなのだ。
気になって読んでみた原作では菜々瀬は例えば山岸由花子ラブデラックスのようなれっきとした荒木キャラだった。

つまるところ、回想シーンにすごく比重を置いて前半のほとんどを費やしてしまったことがすなわち劇場版症候群か?との思いで観てしまった。

一方ルーブルに行ってからは調子が戻る。TVシリーズの延長とも言うべき泉くんとのやりとり、怪しげなキャラクター、そして何より美しい映像。
コロナ禍の制限もあり苦労されたことが忍ばれつつも、観光映画にしたくなかったという監督の弁にもあるように、馴染みの風景ながら一片の絵画のような切り取り方、なぜか無国籍な雰囲気すら感じさせる抑えに抑えた空気感、トリビアも満載で、ああ、すぐにでもルーヴルに行きたくなる!
人生で2度だけパリを訪れたけれど、あれだけ大きなルーヴルの滞在時間は2時間程度、おそらくその魅力の欠片すら掴めていないのだとあらためて思い知らされる感じだ。

さていよいよというところで謎解き、そしてクライマックスともなるシーンについては、いささか安易というか、何が起こっているのかよくわからないままことが進むのは残念だった。暗いところで騒ぐのはコミックのようにコマを追えないので、演出の力量が試されるのかもしれない。
倉庫がロケなのかセットなのか分からないけれど、炎がCG臭いのもやはりちょっと冷めるなぁ。

で、クライマックスと思った物語の結のあとに始まる、もうひとつの劇場版症候群が、さらなる回想シーンでの高橋一生の役どころ。だがこれは、2回目観た時にはすごく良かった。原作ではセリフの一部にしか出てこない仁左衛門の過去、黒い絵の出自が映画の最後の最後に描かれる構成も見事だし、演じた彼の果たした役割は大きい。誰が思いついたのか、ひとつの映画として素晴らしいギミックと言えるだろう。

しかしながら、ここまでの描き方をしておきながら、結局仁左衛門や菜々瀬は露伴の御先祖だったのかなんなのかはさっぱり分からないという「匂わせ演出」で終わらせている。
若い頃のひと夏の想い出を描きたかったのか、脈々とつながる怨念を見せたかったのか、そのふらつきが本作をホラーでもジュブナイルでもない不思議なトーンのファンタジーに仕立てている。良くも悪くも。

原作で明かされていた黒い色の正体も、映画では明かされることがないため、過去編の意味をさらにわかりにくくしている気もした。ジョジョの世界はあくまでビザールアドベンチャーであるべきで、ヘブンズドアを残すのであれば、そこは拾っておいても良かったんじゃないだろうか。

映像と演技はどこを摘んでも素晴らしく、大規模な上映館数でもないのに上々な興行収入を得たのも特筆すべきもの。NHK単独で予算が足りず、テレビ東京が名乗りを上げて出資したエピソードも素敵(毎日放送は何やってんだ?)。いっそ単館系で地味にロングランしてくれても良かったのにな。

最初に長々と書いた劇場版症候群については、回想シーンがそれにあたると思って観ていたのだけれど、前半はそれっぽいものの後半はあるべきものだったので、本作に関してはギリセーフという個人的感想。

日本アカデミー賞には何も引っかからなくて結構。繰り返して観ても楽しめる静かで上質なエンターテインメント映画。こういう作品があるのがジョジョの懐の深さでもある。