昨年のカンヌで注目を浴び今年のアカデミーにおける主演男優賞ノミネートでさらに話題を集めた、スコットランドの新鋭・シャーロット・ウェルズ監督の長編デビュー作。
過去の短編同様らしい自伝的内容は明確な説明をギリギリまでオミットした抽象表現でもって普遍性を担保するという仕掛け。
だもんで解釈の余白が大量に残されたストーリー部分に関しては言及しづらいのが正直なところです。
それもあってまずストロングポイントとして明快に挙げやすいのは、緻密な画面設計が一目瞭然なアングルワーク。
これは一回観たぐらいではとてもじゃないがすべて読み解けないものの、そのインパクトと必然性の両立は不思議と感得でき、それだけでもう「これがデビュー作とは恐るべし!」を体感せずにおれません。このあたりアングルにうるさい日本の某アニメ出身監督にも見習ってもらいたいとシン剣に思ったりしました。
テーマ的にはどうしたって自身の父子関係やエピソードを連想しちゃう訳で、考えてみれば類似の思い出がないではない...けど同じ没後20数年でもそれを体験した年代がこれまた20年も違うと日焼け跡(アフターサン)の感触も随分異なるようで。
まあそんなもん全部違って当然なんですが、ざっくりこんないい感じに父親のこと思い返せないってのは共感度に影響してはいるんでしょう、きっと。
勿論子供いないんで父親の方にもそこまでシンクロはしないものの、希死念慮的なものは常に相応に孕んでいるタイプではあるので、そこの切実さは結構響くものがありました。
で、それが最大限に伝わってくるのが言わずもがな、QUEEN&デヴィッド・ボウイのヒット曲「Under Pressure」が流れるあのクライマックス。「なるほど、そこフィーチャーするか!」の新鮮味も相俟って、観る者すべてに本作の輪郭を明確にし、かつ胸を撃つ名シーンだと思います。
個人的には若干お疲れ気味の日に観たこともあって、どこか漱石の「こゝろ」に通じる寂しげな文学性みたいな余韻で、しんみり帰途につきましたとさ。