回想シーンでご飯3杯いける

aftersun/アフターサンの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.6
11歳の少女と、31歳の父親の、リゾート地での思い出。映像には体系的なストーリーが与えられず、ホームビデオの映像を多用している事もあって、淡い記憶のような形で紡がれている。

その手作り感覚の映像や、'80~'90年代の音楽とシンクロする映像表現が鮮烈で、思い出の断片を観客の頭の中で再構築していくような感覚を味わえる作品である。

父親役のポール・メスカルがアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた事からも分かるように、本作の被写体は圧倒的に父親である。つまり、娘の視点で描かれた作品であるという事。なので、父親は優しく、且つ、どこかミステリアスで、非常に魅力ある存在として描かれているが、一方の娘はとても優等生的で、親から子供を見た時に感じる、得体の知れないエネルギーや邪悪さは感じられない。僕の年齢だとどうしても父親側の目線で見てしまうので、娘の描写が淡白な印象になってしまう。

監督は30代の女性だそうで、自身の父親に対する思いを映画化したのではないだろうか。だから、自分を投影したであろう少女の描き方が、客観性に欠けてしまうのだ。逆に、彼女と同世代の女性が観れば、強い印象を残す作品になるだろうと思う。

挿入されるクイーンやREMの音楽に、しっかりと訳詞の字幕を付けているのが良い。僕の記憶が正しければ、公式な訳詞ではなく、作品に合わせて細部をアレンジしているように思える。こういう細かい部分は作者だけではなく、配給会社の意気込みやセンスが問われる。その積み重ねが日本でのロングラン上映に繋がっているのではないだろうか。