そっかぁ。ZC1000じゃなくってもリバース撮影できるんだ。覚えておこっと!
って、今さら覚えても使い道ないじゃん!
小中和哉の自伝的作品。映画を作る映画。
コダックの「Super8」はスピルバーグ印のJJ作品になったけど、こちらは国産の富士フィルムの「Single8」。
8mmフィルムってまだ現像できるんだ、ってそこがびっくりであり、嬉しかった。
本作の8mm映画部分は実際にシングル8で撮影されている(なんと、このパートは今関あきよし監督が担当!)。
そこも含めて本物のZX550やZC1000、プロジェクター、エディター、スプライサーなどが登場する。
現像から上がってくるときの緑色の箱も本物が使われている。
こういうところが、小中さんの10年くらい後に自主映画を撮り始めた身としては嬉しくなってしまう。
写真屋さんの内装とかもちゃんと作り込んであって、ユル・ブリンナーの当時のポスターもあったよね。懐かしい!
あと、本棚に並んだ本の数々。これらは当時の新刊であったろうところが、だいぶ古書然としちゃってたけど、それは仕方がないよね。小中さんの個人蔵なんだろうけ。
細かいことを言うと、ZX550はこの映画の舞台の1978年にはまだ発売されてなくて、前身のZXM500が正解だと思うけど、入手が困難だったんでしょうね。
ちなみに私は今でもZC1000の動態保存機を持っているんだな、これが。
つってもシングル8売ってないし、個人じゃ現像もできないわけですが。
劇中作品の「タイム・リバース」の技術レベルが高すぎ! 8mmでこのレベルはそうそう作れない。
クレジットを見ると実際に小中さんが高校の頃に作った作品が元になっていて、マスキングしての合成なんかも当時本当にやっていたことがわかる。やっぱ凄い人だわ!
同じく劇中に登場する全篇シネカリ作品「Mark」も凄すぎ。調べてみたら、1982年のPFF入選作なんだ。
作者の進藤丈夫さんは現在映像制作会社を経営されているようだけれど、本作でのシネカリも担当されてるのですね。
シネカリ、私もやったよなあ。
私の場合も本作と同じく「スター・ウォーズ」に憧れて、チャンバラシーンの刀を引っ掻くことでライトセイバーみたいにした。あれ、若いからできるんだよ。今の老眼じゃ無理。進藤さん、私より少し年上だと思うけど本作でやったんだよね。すげ~。
「タイム・リバース」の街中の逆回転シーンは当時の映像だったけど、あれはオリジナル作品から持ってきたんでしょうね。
そうやって、映画関連のくだりは相当リアルに作ってあるんだけれど、気になったのはIbanezのギター。
もちろんIbanez自体は当時すでに存在している会社だけど、本作に登場するギターは現代のモデルでした。
まあ、そういうところも監督の力の入れ方の濃淡がわかって面白いけど。たけし映画の大阪弁なんかも北野監督のこだわりがまったくないんだろうなあ、っていう適当さだしね。
本作の素晴らしいところは、これ自体が「映画の作り方指南」にもなっているところ。
もちろん、それが主眼ではないから網羅的ではないんだけれど、シナリオ論だったり、カメラの技術論だったりが語られるので、それなりに勉強にもなる。
冒頭で書いたリバース撮影機能がないカメラによる撮影技法もそうだよね。
「なるほど!」と膝を打ちつつ、「待てよ、それやると裏焼きになるよな」と思ったんだけれど、後でそこもきっちり描かれてました。
シングル8のASA25の色合い、やっぱいいよなあ。懐かしかった。緑色がほんとに綺麗なんだよね。
それにしても「逆回転」というところがいいですね。リュミエールの昔に発明された伝統ある手法。
高校時代の小中さんがやってたってことですね。しかも逆行と順行のミックス。「TENET」の何十年前なんだ! もっとも、「TENET」の元ネタのコクトー版「オルフェ」よりは小中さんのほうが後だけど。
ヒロイン役は、みんな大好き「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの高石あかりちゃん!
彼女をめぐる中盤の「見る・見られるの逆転」も凄くよかった。
本作がまともに刺さる世代とか層は決して多くはないんだろうけれど、私には満点の作品でした。