岩嵜修平

フルタイムの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

フルタイム(2021年製作の映画)
3.7
2人の子を持ち、郊外から都会のホテルに通勤するシングルマザーの日々を映すだけで十分に緊迫感あるドラマになる。東京とパリの大きな違いは、パリではストが多く公共交通機関が止まること。生活が苦しい中で、不況で失業しそうな心理描写は下手なホラーより怖い。

主人公に関わる人々は誰しも根本は優しく、環境としては恵まれているとさえ思えるが、社会全体の不況と無責任な父親が彼女を苦しめ続ける。経済学の学士まで取得した彼女がホテルでの客室係やスーパーのレジ打ちをする現実。日本も決して他人事とは思えない。『暴力をめぐる対話』にもつながる世界。

エリック・グラヴェル監督、長編2作目と言うのが信じられない、見事な、日常のサスペンス演出。そして、本人が現れるまでは女性監督の作品かと思うほど、リアルに感じる女性描写。名優ロール・カラミーの素晴らしい表情演技も併せて、2時間ずっと目が離せなかった。ちょいケン・ローチ、ダルデンヌ味。
岩嵜修平

岩嵜修平