Melko

イヌとイタリア人、お断り!/犬とイタリア人お断りのMelkoのレビュー・感想・評価

3.9
「私たちは、土地を”楽園”と名付けた。いつか楽園になるから」

「兵士の母親が戦争の実態を知れば、敵を皆殺しにするだろう」

おおー。こういうストップモーションもあるんだなあ!
監督が、自らの祖父ルイジの歴史を紐解く、家族の歴史のお話。
楽しくファンタジーなストップモーションではない。大変な時代を生き抜いた家族の歴史は重く切なく悲しい。貧しい状況から抜け出し、戦争にも堂々とNOを唱える家長ルイジと家族の暮らしと歴史。

イタリアの山奥での貧しい暮らし、大金を求めての鉱山労働とそこでの落盤事故による同僚の死、二度の戦地への赴任と兄弟の死、疫病や事故による家族の死…数え切れないほどの困難がルイジに襲いかかる。
ストーリーテリングはルイジの妻(監督の祖母)
相思相愛で恋愛結婚した2人。距離が離れ、片方は戦地で極限状態に、片方は飢えで死にそうになりながら、2人はどんな時もお互いへの愛を忘れない。

自らのルーツに大きなリスペクトを持ってこの作品を作り上げた監督がすごい。
ストップモーションとしてのアイデアも豊富に盛り込まれていて、
土や栗はストップモーションのフィギュアのサイズに合わせた大きさの本物、木にはブロッコリー、家の壁には段ボールを使い、所々ではダイナミックな実写の自然映像が挟まる。そして何より真新しく感じたのは、神の手的な存在で、監督が神の手的にフィギュアに何かを渡したりして自分の作り出した作品と交流するところ。これ、今までありそうでなかったアプローチのような気がする。作られた世界の雰囲気がぶち壊しになりそうかなと思いきや、監督自らのルーツのお話なので、いい味出している。

ファシスト台頭の時代を生き抜いたルイジ。故郷を大事にしろ、総統を敬えという声に対し、「あいにく俺はフランスに養われた。祖国よりフランスの方が大事だ」と言い放つ。
それは、自分の国の民をろくに守ろうともせず、政治や生活を良くしようともせず、貧しいものからものを奪ってばかりの祖国と、理不尽な戦争での理不尽な過酷さを目の当たりにしたからこそ出た言葉か。

心に秘めたメッセージをしっかりと打ち出してくれた、評価すべき作品かと。
人生で何度も訪れる家族との悲しい別れ。生きたくても生きられなかった過酷な時代。
子供にこそ見てほしい、メッセージを感じて、未来に生かしてほしい。
Melko

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