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怪物のkanegoneのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.4
見終えた瞬間は、すっきりとした気持ちでした。この物語と登場人物たちを見守った観客への、労りのようなものを感じて、さわやかな気持ちになりました。

しかし、前半はもう。
無念で、苦しくて、悲しい。

一方的に蹂躙される者の気持ちが強く描写され、戦争のないこの国の日常を描いていながら、こんなに胸が苦しい描写ができるのかと思うほど重かったです。

こっち側から見た現実と、あっち側から見た現実の違い。さらに、第三の側面から見えるもうひとつの物語があって、それらが複雑かつ見やすく並べられ、心に落とし込まれていきます。

それぞれの想い、それぞれの立場と掲げる正義。幾度となく映画で描かれてきたテーマが、いままたカンヌで脚本賞を獲るレベルで描かれて、見事な作品に仕上がっています。


同性愛的な描写もあるのですが、特に「未熟な男性」において、異性に向き合う準備が出来ていない段階で、同性に対してかけがえのない気持ちを抱くことはさほど不思議なことではないと思います。

夏目漱石の「こころ」でもこのことについては丁寧な描写がありますが、成長の過程において、自尊心を低いところに抑え付けられた少年にとっては、ある意味自然な展開だったのかなと私は受け止めました。


終盤から幕引きにかけての音楽が秀逸で、こういうテイストの邦画としては、日本の持てる総力を結集して制作した感がありました。
いろんな要素を孕ませながらも、全体をしっかりバランスさせて、きっちり物語を着地させる監督にも脱帽です。

演じた役者も、主役のふたりと子役を筆頭に、充実の顔ぶれで大満足です。

あまり予備知識がない方が楽しめると思いますが、心理描写が見事なので、ネタバレがあっても楽しめると思います。
網の目のように細かく重なり合った伏線がすごいので、エンターテイメント性も高い作品だと思います。

映画館で観てよかったと思える映画です。
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