へたれ

怪物のへたれのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.6
良かったとこ1 子役二人
是枝映画は毎回子役が上手いけど、子役への信頼で成り立つ第三幕は「誰も知らない」以来といって良いぐらい子役二人の描き方が良かった。今どき見かけないぐらいのピュアな少年が出てきて驚いた。

良かったとこ2 安藤さくらの上手さ
全体的に演技で埋められる余白が少ない脚本なのに、安藤さくらはシングルマザーとしての心の動きをちゃんと織り込んできてさすがだった。病院からの帰り道で、息子が無事だったことへの安心→原因が解決していないことへの不安→子供が未知の存在になってしまう恐怖→疑惑→学校への怒り、を1カットで連続して表現するところは特に上手かった。

ダメだったとこ 脚本と演出のミスマッチ
3つの視点から描く「藪の中」スタイルの構成だけど、語り手の信頼性を揺らがせずに次のエピソードでミスリードだったことが明かされるため、映画のバランスよりも脚本家がトリックスター的に目立ちたがっている印象だけが残る。
これによる弊害は2つあって、
1. 第三幕のやたらピュアなテーマと、ミスリード構成の食い合わせの悪さが、観客に肩透かし感を与えてしまう。
2. 映画の中で取り上げられるその他の社会問題(学校におけるいじめ、片親家庭の大変さ、モンスターペアレント、児童虐待と学習障害の関係、噂に左右されてじつコミュニティ、高齢者の自動車運転事故)が、ミスリードのためのフレーバー程度になり、むしろどうでも良い扱いになってしまっている。

特に2点目は深刻で、是枝監督がこれまで撮ってきた映画が、現実の社会問題を詰め込んでなるべくエンタメに昇華させようとしていたのと比べて、本作はむしろあらゆる問題をフレーバー的に取り扱うが踏み込むことはしない坂元裕二の個性が目立ちすぎて、映画としての統一感を欠いてしまっている。
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