へたれ

オッペンハイマーのへたれのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2
良かったとこ1 編集によるカットアップ芸
人の記憶があちこち連想するように3つの時代(+回想シーン)が次々と繋がったり、化学反応的な抽象的なシーンが数秒だけ挟まったり、カットアップによってこの映画のリズムが決まっていて、地味な話なのに3時間飽きさせないのが良かった。カットアップは映画の親切さにも貢献していて、「その人誰だっけ?」と思ったときにはすかさず前のシーンのカットが一瞬入ってくれて、これだけ大量に人物が出てきてもそれほど混乱せずに観られる

良かったとこ2 終始鳴り続ける音楽
編集があちこちに飛んでいくのとは対照的に、3時間を丸々1曲で作曲したかのような劇伴に統一感があった。この映画を観終わって一本筋が通ったストーリーのように感じられたら、それはきっと音楽のおかげ

良かったとこ3 正体不明さを演じるキリアン・マーフィ
この映画を観ても、オッペンハイマーという人物が何を考えていたのかほとんど分からない。唯一分かるのは、3時間の映画を通じて公私ともに失敗し続けたということだけ。そういう正体不明さをキリアン・マーフィがどう考えて演じたのかは分からないけど、正体不明なものを再現させるという意味では、よくあるモノマネ芸的な演技とは違った次元の演技になっていた

良かったとこ4 連鎖反応に収斂させるテーマ
この映画が反戦・反核的な側面を持ち込むにあたって、その中心となるモチーフに「連鎖反応」を持ってくることが面白かった。この映画全体が科学的な意味じゃない形の「連鎖反応」を描いており、それはオープニングの水の波紋から、最後のセリフまで徹底されている

ダメだったとこ 意図的にややこしくしているプロット
ロバート・ダウニー・Jrが演じるストラウスは、「アマデウス」におけるサリエリそのものだけど、時代が前後しすぎるプロットのせいで、彼とオッペンハイマーの対立関係が最初からぼやけてしまっている。さらに、終盤の聴聞会と公聴会を重ね合わせるところでは、「ダンケルク」と同様に、異なる時間軸が同時進行しているかのように描いているものの、同時進行しているように見えることで逆にストラウスという人物に訪れた因果応報というドラマチックさが薄れてしまった。 このためにわざわざ巨大白黒フィルムまで調達したらしいのに、プロットの技巧にこだわりすぎてしまった感じがする
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