はる

怪物のはるのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.1
良作。当然タイトルのことを考えながら観ていくわけで、つまるところ観客も偏った見方をすることになる。それぞれの事象を観て、内在する「それら」を自覚することは、今作のテーマのひとつなのだろう。いつものように、事前にほとんど情報を入れなかったことも良かった。

三幕構成というのは最終的にわかるが、あの一幕めはミスリードのためというよりも、そこから始めないと問題がどこにあるのか示せなかった。ただし、作為はそれなりにあったなとは思う。学校側だけでなく、早織もそれなりに困った人物、母親なのも滲んでいたから、二幕め以降の意外性は薄かった。それはむしろ誠実さを感じる部分と言えるかもしれない。
脚本にしても演出にしても丁寧なものだと感じていたから、「ちゃんと伝える」ことを是枝裕和は強く意識していたのかと思う。水筒のところは「それはちょっと」とは思ったけど、依里の父親のことなど、分かりやすさはあえてのものだろう。

途中からは『羅生門』だなとわかるわけだが、その前提が「子供たち」であるのが今作のユニークな点だろう。「あのクラス」が元々どうだったか、保利が赴任してきたタイミングのこととかはやはり考える。
いつまでも「問題が隠されがち」という教育現場のことを、作劇に取り入れている上手さ(表現は難しいが)も感じる。そして、ようやくジェンダーの問題にたどり着く。

三幕めの湊と依里のことになって、とにかくここが丁寧に描かれる。途中からは観客の中からもすすり泣く音が聞こえて、おそらく女性のそれだったと思う。彼女たちは2人が「何処に向かっているのか」を何となく感じていたのかもしれないなと、観賞後に思ったりもした。

描かれている年代のことを思えば、やはり教育の問題は考えるし、このタイミングで「LGBT理解増進法案」も成立した。しかし、ねじ曲げられた法案の内容は当事者たちにとって「理解を抑制する」ものだと非難されている。日本社会の今をこの作品は取り込んで、提示した。例によって考察もいろいろあるようだが、関心はない。
やるべきことをやって、それをちゃんと伝えるという役割を、是枝裕和が担ったことが素晴らしかったなと思う。
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