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怪物のohassyのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
多視点構造の物語を描くことは、ある種クリエーターの夢のひとつだと思う。
だったらやれば良いと思うけれど、本当の客観視点に立たないと描けないからこれがものすごく難しい。
坂元脚本はそういう意味ではいつもキャラクターを完全に俯瞰していて、誰にも寄り添わないスタンスでその世界全体に寄り添う姿勢を貫いているので、すごく強靭な意思を持ち合わせている人なのだろうと思う。

どんなニュースでも物語でも、身近な出来事でも、僕たちはただひとつの結論を求めてしまう。
これはおそらく、多視点の結論が脳や心に負担を強いるからで、自分にとって楽な方に流れていく結果なんだと思う。
本作や、騒音おばさんを描いた傑作「ミセス・ノイズィ」のような作品と時々接することで、自分の客観性を正すきっかけがもらえることを感謝したい。

「ミセス・ノイズィ」やよく引き合いに出される「羅生門」は、多視点性を強く打ち出している作品なのに対して、本作は本当に自然な形で物語に溶け込ませているので、この2作品を「多視点性」と評すことでともすればネタバレになってしまう可能性があるのに対して、本作はそのようにはならないように思う。
そのくらい自然に、日常描写に溶け込ませている。
これは監督の手腕だろうか。

真ん中にぽっかりと湖が浮かぶ「街」についての物語。
映画を観た後たまたま諏訪を訪れる機会に恵まれたのだけれど、ちょっとした高台から見下ろす街並みの先にたっぷりと水を湛えて静かにそこにある諏訪湖の存在感を、滞在中ずっとどこかに感じ続けているような気がしていた。
諏訪湖がある生活と無い生活は、きっと何かが決定的に違っているのだろうな。
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