未島夏

658km、陽子の旅の未島夏のレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
4.0
物語として、ロードムービーとして、とても適切な主人公の『成長』が描かれているのだけど、この主人公ではここまで大きな『成長』を描いて欲しくなかったなと感じている。



弱者側が「変わらざるを得ない」窮状の中で『成長』していく事を描く場合、弱者側にそうさせてしまった社会への一貫した批判が描写の仕方を問わず必要になる(暗喩的でも良い)。

この映画の場合、決してそこが欠けているわけではないのだけど、主人公の変化が分かりやすく描かれ過ぎている事で、どこか社会的視点よりも『成長』によるカタルシスへ意識が向いてしまうのかもしれない。

変わるべきは悪循環を生む社会構造や、それを利用し搾取する加害者側であって、決して弱者側ではないので、そこを最後まで前面に出しつつ、適切な度合いでの『成長』をもう少し描けたのではと思う。



ヒッチハイクの旅を通じて、どうにも利己的に動かざるを得ない窮状に各々が追いやられる社会の中、どう赤の他人との距離を測り描くのかという点は、とても考え抜かれていて素晴らしかったのだけど。
未島夏

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