未島夏

アムステルダムの未島夏のレビュー・感想・評価

アムステルダム(2022年製作の映画)
3.8
‪Filmarks‬試写会にて鑑賞



中盤以降で構成的には間伸びしている部分があるものの、3人の関係性を魅力的に見せる設計が堅実に行われているのもあって、「こんなにのんびりとやる必要あるのか?」と感じるパートもどこか微笑ましく感じる。
最後までその適度なユルさ、セリフ遣いのウィットさが物語を牽引していた。



「物語を牽引する人物造形」という点を掘り下げるとすれば、たとえば冒頭。
物語の発端となる事件へ向かうまでの展開を上手くドライブを掛けて見せながら、事件が起こってすぐに回想パートへ転換し、急ブレーキが掛かる。

半端な筆力ではここから回想パートの魅力へすぐに引き込んでいくのは難しいと予想されるが、現実で第一印象が良い人の話は聞く気になるのと同じく、3人の主要人物それぞれの出会い方と掛け合いでブレーキの掛かった物語を持ち上げていく。

今作の場合は時代背景を映しながら二つの時系列を描く必要があるので、こういったメリハリのある切り替えの方が回想へ入る事自体が上手くいくのは確かだが、そこからしっかりと物語の魅力を継続させるには、やはり人物それぞれの魅力が無いと難しい。

構成的な不十分さそのものが解消される訳では無いので全てを良い点と言う訳ではないが、間伸びしたシークエンスの中に独特の隙のような、掛け合いのユルさが結果的に生まれているのは、この作品独自の愛される部分となり得るかもしれない。



回想パートで描かれる凄惨な戦争描写に軽いトーンの音楽が差し込まれる事で「凄惨さの日常化」が下手にシリアスな戦争映画よりも上手く描けている点や、主要人物3人の柔和な関係性の中にロバート・デ・ニーロのピリッとした空気感が差し込まれる楽しさ、クライマックスの何かが起こる事を予感させながら起こらなかったり、起こったりする展開などなど…

構成と人物造形の技術的なアンバランスさによる独特のタッチがもたらす本作の独自性は、134分という尺を費やす必要は無いものの、観て良かったと思える楽しさを提供してくれた。
未島夏

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