称賛されるべき強度を確かに持った作品であるが、その称賛の際には無論、内包されている「原爆の開発」という覆し得ない愚行をいかに解釈し、否定していくかが前提となり、争点ともなる。
劇中多くのプロットに『単純ではない』複合的で感情的な事由が絡む事で、特定の誰かを諸悪の根源として槍玉に挙げる様な短絡的な思考による「甘え」は許されず、事由に絡んだ全ての人間が罪を自覚すべきとの言及、その咎めこそが物語の本質である点は評価すべきと鑑賞直後の現時点は思う。
しかし、この映画を称賛する際、とりわけ作品の技術力や監督のキャリア上での功績、歴史考証、物語の構成力をあくまで単一の映画として俯瞰的に論ずる場合に我々が必ず念頭に置くべきなのは、劇中で原爆開発を続行する使命感と、それを実戦で生身の人間に炸裂させる過程を切り離して思考したオッペンハイマーと同列の行いを、我々鑑賞者がこの映画に対して行っていないかへの『懸念』である。
どれだけの観客（当然自身も含む）がそこを正確に理解し得るのか。
被爆国の首都で満席のスクリーンの中この映画を鑑賞し、規制退場を待つ間の観客の温度を感じながら、とても不安に思ったのが率直な所だ。
それに足り得る視点での物語に、本作は辿り着いていたのだろうか。
