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君たちはどう生きるかのatyのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

ぶったまげました。青鷺が木刀を噛みちぎり、大量の蛙が這ってくるシーンにめちゃくちゃ感動して、そこからはノンストップ。全ての事象に意味があるように見えてきて、すごく集中して見た。宮崎駿の集大成みたいな作品(一番面白いという意味ではない)。

ここからの感想は考察(それも根拠のない)を大いに含むので、苦手な人は注意をお願いします。

【なぜアオサギ、ペリカン、セキセイインコなどの鳥がモチーフなのか】
冒頭の東京大空襲の映像から、飛行機(B29)の暗喩と捉えることができそう。ペリカンはワラワラ(人の元)を食べるし、擬人化したインコは人を食べよう(殺そう)とする。ペリカンの「こちらも飢えているからしょうがない」や、インコの「夏子はお腹に子供がいるから食べない」という台詞に、戦争の記憶が呼び起こさせる。また、現実界に飛び出したインコたちが大量に落とす糞は、爆撃そのものに見える。
アオサギだけは、かなり特異な存在。台湾版タイトルでは『蒼鷺與少年(青鷺と少年)』となるくらい中心的な存在なのだが、現実界において半擬人化したり、他の個体が存在しなかったりと、一種の神様みたいに見えた。あれはアオサギの姿を借りただけの「何か」だったのだと思う。

【壁抜けならぬ床抜け】
村上春樹の小説に「壁抜け」という、硬いと思っていた場所がゼリーのように柔らかくなり、通り抜けてしまうという描写があるが、この映画にはそれにそっくりな事象が見られる。この「床抜け」を見たときに、「世界は繋がっているんだ」と思った。それだけでなく、光のトンネル、塔の階段、暗く狭い穴、案内人がいないと迷ってしまう迷路、水辺を越えることなど、古今東西変わらない、異界へ通り抜ける要素が多く散見された。

【今までの素材の集合】
この映画には、今までのジブリ作品にも見られたような素材が多くある。ワラワラはコダマそっくり。仕組みこそ違えど、時の廻廊の扉はハウルの城の扉そのまま。喋る獣という括りで言えば、アオサギはもののけ姫に登場してもおかしくない。そういった素材を組み合わせて作ることで、鑑賞者が「あ、これ知ってる」という感情を抱くことができる。それこそが、我々が大好きなジブリっぽさであり、またその先には、遠野物語のように過去から語り継がれた不思議な話や歴史が数珠繋ぎになる。巨匠のみのなせる技法。

【言わずとも理解できること】
マヒトとヒミが親子であることは、作中のどこかでお互いに気づく過程があるはずである。凡百の監督なら、それに気づき感動するシーンが描かれるところを、お互いが理解しているという描写のみで終わらすのが最高にカッコいい。夢を見ているときにたまーにある、これはこういう意味なんだ、と突然気づく瞬間に似ている。

【異界という夢】
一人の人間にとって、戦争、母の死、新たな母の存在、引越し、学校生活の変化、という事象が同時に迫り来ることは、精神的にとてつもなく大きなダメージを受ける。人生の様々なことについて自分が決定権をもたない子供にとっては尚更である。外見には現れなくとも、また本人が気づかなくとも、心はズタズタだろう。そこで異界(夢)が必要になる。この映画で起きたことはまさに夢のようだけれど、そこでの大冒険を終えて帰ってきた少年の顔は晴れ渡っている。無意識の世界での闘いを勝ち抜いて、一人前に成長した青年である。
最後の場面であの世界に残ることを選んでいたら、海で溺れていたら、インコに食べられていたら…現実世界でのマヒトは帰らぬ人となっていただろう。危険と隣り合わせだからこその成長物語、それが他人には見えないところでおこなわれる点で、これはファンタジーでなく、物凄くリアルに見える。
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