このレビューはネタバレを含みます
こんな映画が見たかった！
近年のジャンプ系の大ヒットアニメの劇場版といえば『鬼滅の刃』『呪術廻戦』が挙げられるが、どちらも原作もの。個人的には『名探偵コナン』や『クレヨンしんちゃん』のような本編から離れた劇場版が生み出すクリエイティビティが大好きなので、『スパイファミリー』の映画版がオリジナルストーリーと聞き、いてもたってもいられなくなり劇場に足を運んだのだが…めちゃくちゃ良作で、満足度の高い劇場体験だった。
まず、原作の持つ魅力を存分に活かした内容となっているという当たり前だけど意外にできなかったりするポイントをしっかり抑えている。スパイ、殺し屋、エスパーという登場人物の能力が要所要所に発揮され、さら家族全員が嘘をついているが故のスリリングな展開、それらを活かしたアクションが全編通して展開される。
そしてさらに、本作ではマイクロフィルムをマクガフィンとしてうまく使い、サスペンスとしての強度を高めながらストーリーに一本筋を通している。（個人的には黄昏がクライマックスまでアーニャがマイクロフィルムを持っていることを知っていた方がより観客の集中力もより高まった気がするが…）
クライマックスでは劇場版クレヨンしんちゃんばりに家族の絆を強調した展開があるが、アーニャは変顔するし、黄昏はあくまで冷静さをキープしているのでウェットになり過ぎない点も個人的に嬉しいところ。
また、原作やアニメを知らない人でも設定が理解し易いよう、オープニングでしっかりキャラクターの説明が準備されていたこと、さらにその説明が必要十分で非常にスマートであったことも付け加えておきたい。
個人的に一つだけ文句を言いたいのがOfficial髭男dism による主題歌「SOULSOUP」の取り扱い。アニメ一期のOP「ミックスナッツ」のイメージを引き継ぎながらも、カーティス・メイフィールドの名曲「Move On Up」を引用してソウルフルなテイストを加えた作品のイメージにあった傑作曲だと思うのだが、この曲が本編では一切使われておらず、星野源によるEDテーマの後に申し訳程度に流される。これは酷い。この素晴らしい主題歌が映画のオープニングあるいはクライマックスに使われていたらもっと祝祭感の強い素晴らしい作品になっていたと思うだけに…非常に残念に思う。
ネットの感想を見ると多くの人がアーニャのマイクロフィルムを巡る一連の展開について『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』、『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』との類似性を指摘している。さらに、ヨルが飛行機に飛び乗るシーンは『ルパン三世VS名探偵コナン』、飛行艇（？）を不時着させるシーンは『名探偵コナン 銀翼の奇術師』を彷彿とさせる展開である。個人的には、これらのシンクロニシティは、このシリーズをコナン映画やしんちゃん映画などの国民的プログラムピクチャーに育て上げるという決意表明のようにも思える。来年以降も毎年作り続けてほしいと思える傑作である。
