アー君

インフィニティ・プールのアー君のレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
3.3
ポスターヴィジュアルは水の中で上半身だけが出ているカットなので、どこかの底なし沼にはまった洞窟を舞台にしたジャンルホラーかと思いきや、全然違う内容ではあったが、ブランドン・クローネンバーグの監督作品としては通算で3作目であるが、期待を裏切らずに彼なりの世界観が確立されたのではないだろうかと思われる。

[↓以下ネタバレを含む内容がございます↓]

舞台は架空の国であるが、おそらくは東南アジア近辺を参考にしていると推測をしている。(架空の文字や言語も映画のために作ったようだが、ディテールに拘りを感じていた。)

大罪を犯して死刑を宣告されても、クローンを使うことで自らの罪を免れるという話は月並みで、B級小説にありがちでどこかで聞いたストーリーかもしれないが、「郷に入れば郷に従え」に振り回される人間の滑稽さや、抑えられた自我の解放という意味では興味深い不条理劇であった。

テクノロジーが変化することで人間性が変貌していくのは、ご多分に漏れず匿名性を悪用したネット犯罪が増加しているのが事実であるが、この映画ではグロテスクな仮面(ペルソナ)がある意味で暗示しており、クローンは自分とは違う客観的な他者として扱っている描き方にはユニークな視点である。

本作によるテーマとは当たらずしも遠からずではあるだろうが、大人しかった人物が、旅行先でやたらとテンションをあげてハメを外したり、マナーの悪い輩(旅行客)を見かけたことを思い出した。また旅行先は合法的にドラッグをやってもOKや、インバウンドによる旅行特需や外国人観光客に対してのブラックユーモアも少なからず交えていたのではないだろうか。

身体の変容性については「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」で述べているので詳細は省くが、ブランドン・クローネンバーグと父親の作品による違いを精神と肉体による差異であると位置付けられる事に異論はないが、息子であるブランドンの映像描写には、無意識に父親に対しての愛情と憎悪を同時に持ったアンビバレンツ(両義性)な感情を持っており、ある意味で尊敬と軽蔑が混ざった複雑な心理構造がある。

パンフレットは本文の斤量が厚く、端正で緻密に作られたデザインである。予算の件もあるのは承知であるが、表紙は中面の紙と同一にしないで、表紙だけ手触りに独特の感触のある仕様であれば雰囲気を醸し出せたとは思うが。

[池袋HUMAXシネマズ 11:25〜]
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