私が映画作家として敬意を払うルイス・ブニュエル監督の「愛なき女」は、1951年にメキシコ時代に製作された珍しいメロドラマである。(ブニュエル本人曰く失敗作とのこと)
経済的な貧しさにより年上の男性と結婚をした女性が学校のトラブルで家出した息子を助けた森林技師と出会い、やがて愛し合う事とになったが、数年後にその男の遺産相続が原因で家族にもたらす苦悩を描いている。
物語において重要な鍵を握る次男の登場が唐突なところ(次の卒業式シーンで20年経過!?)以外は、構成・展開の良さは観ていて丁寧で分かりやすかったが、大きな盛り上がりがなく、ブニュエルらしさが薄かったのは、本作の脚本がハイメ・サルヴァドール(Jaime Salvador)だけであったからだろうが、(「スサーナ」では共作)親の不貞を知った長男と母親との間による亀裂には、キリスト教による貞節が絡んでおり、この時代ならではの格差問題や宗教批判も少なからず見え隠れしていた。
そして、登場人物にクセがなく普通すぎた点もあったのではないだろうか。兄弟間で衝突があったと思えば意外にも早く和解になったりと、拭いきれない血筋の生々しさが足りなかった。(逆に嫌味な看護師の方が存在感はあった。)
ストーリーテリングに宗教的な教訓とそれに伴う批判を盛り込むのであるならば、旧約聖書のカインとアベルのような世界観で兄弟間の確執をメロドラマの要素に引き込む手段もあるとは思うが。