待ちに待った「ゴーン・ガール」以来のフィンチャー映画である。(配信のみの「マンク」は未見のため)脚本は「セブン」のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカー、製作がPLAN Bであれば、矢も盾もたまらず映画館へ足を運ぶ事となった。
ストーリーは禁欲的なヒットマンが哲学的で独り言のようなナレーションをするだけの復讐譚であったが、良い意味で地味であり古き良きフィルム・ノワールを意識したサスペンスであった。
テクノロジーが進化した情報化社会において(Amazon、FedEx、Google)最先端のガジェットをスマートに使いこなしながらも、肝心のアクションシーンは泥臭く生々しすぎる惨めさと皮肉が効いており、いかにも監督らしいリアリティーにこだわりのある描写が散見されていた。
暗殺者である無名の男を知る上で、英国バンドThe Smithsのナンバーを始終聴いているという映像から内向性が強い性格であるという情報の伝えは分かりやすいとは思う。また暗殺決行時に使用した楽曲は「How Soon Is Now」であり、その一部の詩を引用するが、
I am the son and the heir of a shyness that was criminally vulgar.
(僕は下品で、
犯罪的なほど恥ずかしがり屋の息子の後継)
I am human and I need to be loved Just like everybody else does.
(僕は人間、皆と同じに愛を必要としてるんだ)
この楽曲を背景にする事で、冷徹無比に暗殺を決行するイメージとはほど遠い無垢で少年のような内面を垣間見ることができる。(もちろん作詞はモリッシーだが、共鳴して同一化している意味として)
フィンチャーがThe Smithsの楽曲を選択したのは少し驚いた。アメリカ人だしバンドの全盛期は社会に出て働いていたから年代的にどうかなという違和感はあった。(駆け出しの時期はMTVのディレクターだったけど)
ちなみに英国出身のクリストファー・ノーランが「インセプション」でジョニー・マーのギターを使ったのは理解はできるが。
それ以外にもサウンドトラックとしてNine Inch Nailsのトレント・レズナーが野太いシンセベースの音を効果的に伴奏していたが、今までの腐れ縁だとは思うが、NINとThe Smithsは水と油の関係。上記のツールとアクションの関係であれば、アナログとデジタルという両義的な意味だろうが、The Smithsが割合を占めていたのと、お互いを潰しあっていたように感じていたので、ハワード・ショアのような重奏的なクラシックでも良かったのではないかと思う。
好きな映画監督なので期待しすぎていたところもあったが、最終評価としては中の上ぐらい。暗殺のチョンボから起きる話の持ち出し方は面白く、技術的に大御所らしいソツない撮り方であるが、全体的にプロットが単調すぎたところがマイナス要因である。キャスティングも好きな役者がいながらも主人公以外の人格描写に弱さを感じてしまったところもあった。しかしこの配信(映画)でThe Smithsの音楽を初めて知るきっかけの世代もいる筈なので点数は高めである。
私が監督であればエンドロールに使用する楽曲は
〝There Is a Light…〟では少女趣味すぎるので、
〝Frankly, Mr. Shankly〟で嫌味たらしく笑わせたいかな。
[使用されたプレイリスト]
・Well I Wonder
・ I Know It's Over
・How Soon Is Now(暗殺実行時)
・Bigmouth Strikes Again
・Unhappy Birthday
・Heaven Knows I’m Miserable Now
・Hand in Glove
・Shoplifters of the World Unite
・Girlfriend in a Coma
・This Charming Man
・There Is a Light That Never Goes Out 他
(エンドクレジット)
※ 鑑賞直後の記憶だけの記述であり間違えている可能性がございます。
[ヒューマントラストシネマ渋谷 12:15〜]