田島史也

四月になれば彼女はの田島史也のレビュー・感想・評価

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
3.4
感情もストーリーも展開せずに漂う作品

言語化の困難な感情の渦に観客も含めて飲み込まれていく作品。何か与えられたメッセージを受け取るような構図にも見えるが、実際は、共感と拒絶の中で、ただただ圧倒されるのみ。ワイングラスが割れてしまった時、ピアノを習っていたことを知らなかった件、二人のすれ違いの蓄積が、本作の終盤に具体的な語りとなり、「愛を終わらせない方法」という一貫したセリフと共にその意味を強めていく。

大衆映画として、フィルムカメラや晩婚化、草食男子など、時代性を反映させたつくりであったことは、マーケティング的な目線では評価されるのだろうと思う。突然の雨に降られるとか、男女の3人組とか、恋愛描写としてかなりベタだなと感じる部分も散見され、それが本作を少しだけチープにしているようにも思われた。しかし、それらは本作において1要素でしかなく、明確な連関と連続を持たず漂う本作だからこそ、許されるようにも思えた。チープな描写もストーリーそのものに影響を与えることはない。

フィルムカメラを扱う作品なだけあって、本作の映像は他のそれと一線を画す出来栄えであった。淡い中にフィルム的な明暗が確かに存在し、心情が揺らぐ本作の輪郭を確かに捉えていた。撮影監督である今村圭佑氏に賛辞を送りたい。

セリフにより順序立てられたストーリーテリングが行われるわけではない本作において、俳優の表情は際立って見えた。息を呑むような圧倒させられる演技というものはなかった、というより演出上そうならなかったが、一貫して人物の感情の交錯を伝える素晴らしい演技であったように思う。佐藤健をキャスティングしたのは良かったなぁと思った。

音は特徴的だった。観客の感情を誘導するものではなかった点は評価したいが、随所に据えられたオリジナルサントラは、本作の価値をそう高めるものではなかったようにも思う。


映像0.9,音声0.5,ストーリー0.7,俳優0.8,その他0.5
田島史也

田島史也