むさじー

さよなら。いつかわかることのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

<家族の死を乗り越える父娘の旅>

ホームセンターに勤務するスタンレーの妻グレイスは兵士としてイラクに赴任していて、ある日、彼は妻が戦死したという報せを受ける。彼自身、その事実を受け入れられずにいるが、更に母親が死んだことを12歳と8歳の二人の娘に伝えられずに苦悩して、何とか伝えようと二人を遊園地に誘い旅に出る。
家族の死をいかに乗り越えるか。旅の途中で長女は父親の異変を感じ取って気遣いを見せるが、幼い次女は無邪気なまま。父娘三人の感情の移ろいが淡々と描かれ、静かな悲しみが伝わってくる。ストレートで何のひねりもなく地味ではあるが味わい深い作品。
しかし、戦争が子どもから親を奪う罪、子どもに親の死を知らせる辛さは伝わってくるのだが、旅を通して父娘ともに「乗り越える」過程が描き切れていない気がした。ラスト、海辺で告白をする時はさすがに涙腺が緩んだが、途中から言葉が途切れて音楽に消されてしまう。妻の死を受け入れた父の言葉とそれを受け止める娘の姿が描かれるべきなのに、と思ってしまった。
少ない登場人物の中では、スタンレーの弟のジョン叔父さんの存在が面白い。32歳で無職のモラトリアム男で、現体制を批判するイラク戦争反対派。軍人を志しながら挫折した兄や、軍隊で知り合って結婚した兄夫婦とは真逆の思想の持ち主なのだが、深くは絡んでこなかった。もし彼が兄や姪ともっと関わっていたら何を語るのか。きっと、身近な人の死だけではない何かが描けたのではないかという気がする。
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