アネモネ

ビヨンド・ユートピア 脱北のアネモネのレビュー・感想・評価

4.8
感想を書こうとするだけで、あの家族とキム牧師のことを考えるだけでまた泣けてきます。
鑑賞時間が2時間だったのか5時間だったのか数週間だったのか混乱するくらい、内容が過酷過ぎました。

こんなに近くて遠い国、北朝鮮。
ここまでくると果たして国なのでしょうか。
何も知らなければユートピアかもしれないけれど、もうこれは大きな宗教のような。
というか、聖書になぞらえて自分をイエス様みたい神話を広めてるとかまじで衝撃。
おばあちゃんの混乱は洗脳の恐ろしさを表していると思いました。
でもわかる。だって80年間生きてきて、当たり前だと思ってきた事が全て違ったんだもん。
「もっと若い時に来たかった」と言うこの家族の言葉もとても重い。
今まで抱いてきた理想や憧れや夢に、水が出るとかオシャレとかお腹いっぱいのご飯とか、全く入って無かったことばかりだから。
知らないんだから候補にならないよね。
知らないことは、幸せなの?
信じることは幸せなの?
私は、そうは思わない。
それは今他国で起きている悲しい戦争を知ることや過去の歴史を知ることが大事なのと同じで、知ることで様々なことを考え成長し、自分を作っていけるのが人間だと思うから。
知ることで悲劇を繰り返さないように努力するだってできる。逆もあるけれど。
だからこうしたドキュメンタリーやジャーナリズムは大事だと思うのです。
そして私も「知った」朝鮮半島の悲しい歴史。
知れば知るほど感じる人間の愚かさ。
そもそも論が辛く重すぎるからこそ、一人一人考えないといけないじゃんって、学ぶ度に思う。
年始に見直したスウィングキッズでも言ってたよ。
ファッキンイデオロギー!


泣けるのに鑑賞後に感じる心の温かさってなんだろうと考えていました。
それは世界を知らなくても命あるものに共通のするとこ「家族のつながり」でした。
どんなに怖くて辛くても家族を信じて着いてきてくれる幼い子供達。
それどころかおばあちゃんの支えになり涙を拭いていて、わがままも言わない。
先に脱北したお姉さんが家族を想い麻痺を起こすほどの心労をかかえ、弟は迷わず迎えに旅立つ。
もう1人の主人公のお母さんも同じ。
それぞれがどこに居ても想いを馳せる家族と生まれ育った地。
それもこの映画のテーマの一つだと感じました。
家族が一緒に暮らしたいと言う強い気持ちが無ければ、この一家はこんな過酷な期間を乗り越えられなかったと思う。
国境の先にある世界を想像さえできなかったんだから。
おばあちゃんそっくりな3人の子供達と孫娘。
この家族の笑顔がずっと続きますように!


そしてなによりもキム牧師の活動に敬意を表します。
キム牧師の活動を支える寄付者にも。
こんなに命やお金をかけて行う支援に脱帽です。
ここまで身体も心もボロボロになってまで活動を続け、それでいてあの穏やかな口調とお顔。
わかりやすくに簡潔に脱北のオペレーションを伝える技術。
とりあえずキム牧師には大至急ノーベル平和賞をお願いします!!


余計な話ですが、80のおばあちゃんや幼い子供達があれだけ過酷で大変な日々を倒れることなく成し遂げられたのは、北朝鮮の生活はもっと大変で苦労のぶん体力がついてるのかな、と切なくもなりました。
アネモネ

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