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夜明けのすべてのdeenityのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.4
『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督の最新作。非常に評判も高く、三宅監督の作品といえば優しさが溢れる印象もあって、かなり期待値も高めで鑑賞してきました。そしてそれを上回るだけの鑑賞後感の心地よさがある作品でしたね。
上映中作品なのでネタバレ避けたい方はご注意ください。

本作の主演を務めるのは上白石萌音ちゃん演じる藤沢と松村北斗くん演じる山添。
まあこう聞くと2人のラブストーリーを予想しちゃったりもするのですが、実際そんな空気感はまるでなくて、予想を裏切られましたね。

予想を裏切られるという点でいうと冒頭から結構印象的で、藤沢が抱えるPMSについての説明がかなり丁寧にナレーションが入るんですよね。
正直映画内ナレーションに語らせるって反則感あって基本好まないんですが、PMSってもの自体をあまり認識していなかった自分からすると、その症状を理解することは本作において欠かせませんし、自分にない考え方に触れているのも新鮮で、殊の外抵抗感なく見れましたね。

そして丁寧にPMSの解説をする一方で、全く説明もなく叩きつけられたのが、山添のパニック障害ですね。
これも上手いところで、知らないまま山添という人物を見ていくとどうしても関わり難い人柄に見えてくるわけですが、その実を知っていくと見方自体も変わっていくという、藤沢とは逆パターンのアプローチをすることによって人の印象の持ち方にハッとさせられるわけです。

この2人がまたたまらなく自然体な感じがいいんですよね。最初こそ恋愛展開を予想するものの、中盤辺りには「こりゃないな」と思わされて、家で2人で過ごすくだりが典型ですね。ポテチ流し込みシーンなんかは普通やらないですからね笑

男女間の友情の話は直喩的だと思いますが、大事なことは助けられる人はいるってことなんですよね。別に恋愛じゃなくたって、親友じゃなくたって、相手を理解し思いやる気持ちがあれば助けられる。たとえ毎回じゃなくとも3回に1回くらいは。
それを表すかのように、日曜に偶然職場で鉢合わせて、1枚の窓越しに2人が映るあのカットの優しいこと。なんかそれだけでグッと来るものがありました。

山添の変化とかもいいですよね。それこそ自分勝手に他人を寄せつけなかった山添が、気づいたら栗田科学のジャケット羽織ってたりとか、「コンビニ行くけど何かいるものありますか?」とか。その何気ない変化にすごく心が温かくなりました。

たしかにこんな温かい職場や、理解者になろうとする同僚なんて周りになかなかいないでしょうね。ただ、まずは知ることから始めるべきで、それを表すかのような本作の構成を考えると、三宅監督の素晴らしさを改めて実感する作品でした。
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