はる

碁盤斬りのはるのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
4.2
とても良かった。
今月は清原果耶出演の新作が続いていて、こちらも『青春18×2 君へと続く道』と同様に、彼女の過去作のことを思い返す内容だったりする。今回は復讐&時代劇という点において。

今作は主演の草彅剛が圧倒的で、白石和彌によってそのように撮られているにせよ、この上質さは見事だと言うよりない。
やはりこの父娘のあり方、関係性やお互いを思う気持ちというのが核にあって、言葉足らずながらも繋がりの強さを感じさせるのが素晴らしい。まあ格之進には言いたいことがかなりあるけども笑。

そしてそこに小泉今日子が関わってくるという驚きもあり、情報を入れないようにしていたから、ちゃんとびっくりした。3人それぞれのアンサンブルがいちいち良くて、この配役の良さは滅多に見られないレベルではないか。
あの序盤で示された「石の下」という手筋のことが作品を通して貫かれていて、そのことを考えることで色々と余韻が続いている。

囲碁のシーンでは「生きる」「死ぬ」「殺す」という言葉が繰り返し交わされる。だからクライマックスである兵庫との対局は、そこから既に斬り合いの意味が込められているわけで、2人がどのように振る舞っているかが、まさしく死活に関わっている(死活は囲碁用語からきている言葉)。
その上で「石の下」を選択したことの意味は当然考えられるべきで、これはなかなか面白いのだ。捉え方は人それぞれで良いと思うが、格之進が囲碁での勝負を提案したところから駆け引きは始まっていた、と考えるのは見当違いでは無いだろう。そして格之進の怒りの強さを感じさせてもくれる。

物語のベースが古典落語ということで、古典におけるお絹の扱いが実にひどいことを鑑賞後に知る。古典のままやるべき、みたいなことは夢にも思わないが、悪い想像はしてしまうもので、いや大丈夫と思い直しながら観ていた。そういう意味で、お庚が見せたあの非情さは作劇として効いていたということだ。
お絹が自ら50両の用立て方を提案するのも「いくらなんでも」ということだが、それを受け入れる父親もどうかしている。それほどに2人の復讐心は強いということにはなっているにせよ。ホント格之進には言いたいことが多すぎる。ただし、草彅くんも演じるにあたって「格之進ちゃんとしろ」と感じていたそうなので、まあとにかく困った奴なのだ。

そして、こちらは誰しもが気になったはずの「探幽の掛け軸を格之進はどうしたのか」について。これはまあ、「兵庫が言っていたことが本当であれば、それで良いと思った」と格之進が言っていたので、あの嘘を実行するために彼は旅に出たということだろう。ただし、それが終わったら戻ってくるのかどうか、は微妙な感じでもある。格之進は危うい人物なので。

撮影については、照明、カメラワークなど絵作りにもこだわりを見せていて、音響のちょっとしたアイデアなど「映画館でこそ」と思える仕上がりだ。また、書体や狩野探幽、あの碁盤のことなど、出てくるものについても気になってくるというね。これはもう一度観るべきなのか。そこでまた気付きもありそう。
とにかくこれは観て良かったなと思える作品だ。
はる

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