QTaka

ある日、ある女。のQTakaのレビュー・感想・評価

ある日、ある女。(2022年製作の映画)
3.9
日常に”カット”は無い。始めから終わりまで、ワンカット。
淡々と、もしくは強引に流れていく日常こそ、ワンカットなんだね。
それをそのまま撮ろうとすると、それはそれは大変なことになる。
ーー
過去に鑑賞した折りに記録した感想です。
鑑賞2021.10.17(京都国際映画祭)
ーー
「全編ワンカット!」という言葉に魅かれてクラファンに出資したのだけれど、実際その映像はどうだったか。
今回は、京都国際映画祭にて、2度目の鑑賞。
一度目は、クラファンの特典として鑑賞する機会を得たのだけれど、あまりのスプラッターシーンに、せっかくのワンカット撮影を確認しきれなかった程だった。
でも、確かにワンカットだった。

ワンカット映画は、これまでも幾つか見てきた。
中には、ワンカット風の映画も有ったのだけれど。
”ワンカット”は、撮り始めたら全編を通してしまうので、そうそう取り直しが出来ない。
つまりは、全編いっき取りなので、役者も、舞台も、小道具すら繰り返しがなかなかきかない。
ましてや、この映画の場合、主役は殺人を犯すことになり、その精神は崩壊していく。冒頭から、クライマックス、そしてその後まで、ジェットコースターのような精神状態の変動を繰り返すのは本当に至難の業だろう。カット割りが有ればこそ、それらを演じ分けることも可能かもしれないけれど、撮り直すたびに、そのジェットコースターをのりこなさなければならないのだ。
実際のところ、ワンシーンワンカットの撮影は、一日一回だったようだ。
まぁ、それ以上は無理だろう。だからワンカット映画の凄さは、そこにある。
撮影する側も、演じる俳優も、凄い集中力が有ったのだと分かる。

ワンカットで、場面を切り替えるにはそれなりの手段を取る。
カット割りに相当するシーンの切り替えの技が有った。
回想シーンへの入り口は、とても上手く、ワンカットで有りながら、シーンが変わる事を明確に示してくれていた。
一方で、回想からの戻りも、実に明快に、スパッと戻ってきた。
この辺りは、ワンカットならではのポイントで、いちいち立ち止まらずにどんどん進む感じが有って、「なるほど!」と唸らせるポイントだった。


カメラは、主人公みひろを追うように撮りながら、部屋の中のシーンでは、一歩引いたところから二人を追い、そしてみひろの表情を追っていた。
その、惨劇シーンまでは、主人公を追う視点で進むのだが、この流血シーンからは、状況が少し異なると思った。
それは、その演技に呑まれてしまったと言う事かもしれないし、物語を追うというより、物語に入り込んでしまったという事かもしれない。その後の展開を思ったり、主人公の立場や気持ちの流れにのめり込んでしまう。
いや、この映画の楽しみ方は、恐らくそこじゃないかもしれない。
”ワンカット”を意識した方が、実は面白い。
実は、今回は、その”ワンカット”を楽しみながら見られたのが収穫だった。
つまりは、この映画、普通に出来が良いのだ。
物語の展開も、出来事も、それらを演じる役者の演技も、実にスムースで、抑揚が有って。黙って見ても、何の違和感もなく楽しめるのだ。
そこで、”ワンカット”なのだからなおさら面白い。
実際の物事は、カット割りなどなく、連続して進んでいくのだから、”ワンカット”こそがリアルなんだと確認させられる。
ただ、そこにはとても上手に計算された演技や、殺陣の仕込みなどがあることも重要だ。
そんな、回り続けるカメラの画角の直ぐ横で展開されていた裏方の名場面がメイキングに見られる。(クラファン特典)
クラファンに出資した時から、ホントに見たかったのは、実はこちらの映像だったりする。
本編の満足度をさらに裏打ちする貴重な映像だ。
カメラのこちら側の人の動き、作業、音、全ての課題を一つ一つ解決していく過程が、とても丁寧で、緊張感に溢れている。
プロフェッショナルな仕事と、この作品を完成させる為のスタッフ、俳優の献身的な姿に、感服する。
2度の本番で、無事撮影終了。だったようだ。
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