ヨーク

HOW TO BLOW UPのヨークのレビュー・感想・評価

HOW TO BLOW UP(2022年製作の映画)
4.0
これは面白かったっすよ!! とエクスクラメーションマークを二個も付けてしまうほどの書き出しなのだが、ぶっちゃけ傑作とか名作というほどではなくそれほど持ち上げるような映画かというとそこまでではないかなー、という気はする。じゃあ何がそんなに面白かったのかというと、何だろうな、まずはパワーと勢いだろうか。『太陽を盗んだ男』と『FF7(の序盤)』と『恐怖の報酬』と「カンブリア宮殿」以前の村上龍作品(『昭和歌謡大全集』とか『半島を出よ』とか)を混ぜたような感じといえば過剰なほどのパワーに溢れている作品だというイメージは持ってもらえるのではないだろうか。
そういった雰囲気と『HOW TO BLOW UP』というタイトルを合わせて考えると、そのような勢いとパワーに溢れた作品だという感じはパッションは溢れるがB級のくだらないノリの映画かとも思われるかもしれないが、お話自体はめちゃくちゃシリアスでした。シリアスで切実な現実をサスペンスフルに描くので緊張感は凄く、パワフルな映画ではあるがバカっぽさなどは皆無である。まぁ、バカといえばバカとも言えるところはあるとも言えるだろうが、まぁそこは各人がどういう立場で本作を観るかに因るところが大きいのではないだろうか。ちなみに登場人物はみんなバカだけどな! わはは。
ちなみにもう一つ俺が本作を面白く思った理由としては、例によって例の如く本作の内容を全く知らずに観たからというのはあるかもしれない。本作『HOW TO BLOW UP』は美術館に行った帰りに一本観て帰ろうということで、とにかく上映時間が近い映画なら何でもいいやという気持ちで選んだのである。ちなみに本作よりも5分遅い上映時間で『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』がやっていたので少し迷ったが、結果的には本作をチョイスしたわけだ。いやー、ハロルド・フライの方は観てないけど多分真逆なノリの映画だったんじゃないかな。正直『フュリオサ』以上に神も仏もいない映画だったからね、これ。
お話はのっけから切羽詰まってる感じなのだが、あらすじを長々と説明しても仕方ない映画だと思うので簡潔に書くと、環境破壊も辞さずに事業を進める石油会社に人生を狂わされたZ世代の若者たちが集まり、協力して手製の爆弾を作り上げてその石油会社のパイプラインを爆破するという計画を立ててそれを実行するお話ですね。端的に言うとまぁテロだよね。『HOW TO BLOW UP』というタイトルも、ほんとにそのままの意味だったのかよ!? と思ってしまうほどにストレートである。上記した俺が本作を観ながら脳裏をよぎったタイトル群を見れば、あぁー、という感じではないだろうか。ちなみに本作はFBIが上映中止を求めたとか何とかといういわくが付いてるらしいが、まぁ国家権力が本気で潰そうとしたかどうかはともかくとしてもポーズだけでもそう言っておかないと国としての立場的に不味いよな、とは思ってしまうくらいの近年稀に見る体制側に中指を立ててる映画でしたね。そんなの映画の出来不出来以上に俺は好きに決まってんじゃん。
ま、テロを助長するだのなんだの言われてるみたいですが、暴力に抗する際に手段として暴力を選ぶことの是非とかはともかくとして、基本的に映画として観るならば完全にもっとやっちまえ! というノリで主人公たちを観ることができるくらいにはきちんと立場の違う彼らの姿を描いていて、それがパイプラインを爆破するだけというシンプルこの上ない物語の要所要所に過去回想という形で挿入されることによってどんどんお話の奥行きが広くなっていくんですよね。この構成は中々巧みで最終的には彼らが行ったことは単なるテロ行為の是非で済ましていいのだろうかというところにまで到達するわけである。もちろんテロ行為なんて断じて許せん、パイプラインの破壊もそうだし美術館の名画にスープとかぶっかけるような奴らは全員刑務所送りにしてほしい、と思う人もおられるではあろうが作中でも言及されたアメリカ独立戦争への契機ともなったボストン茶会事件だってテロといえばテロなのである。また、動物愛護という精神は現代では当然のものとして認知されて広く普及していると思うが、100年とは言わずとも50年前でもそこまで周知されていた価値観ではなかった。もちろん単に犬猫みたいなかわいい愛玩動物が好きだから動物は大事にしろというようなことだけではなく生物学や社会科学の発展に伴って生まれてきた環境学とでもいう分野の中から生まれたそれが動物愛護法という形になったのは1973年のことである。何が言いたいのかというとウチの犬猫かわいい程度のレベルならともかく、100年前に動物愛護の精神を持って野生動物の保護を訴えていたような人間はきっと頭がおかしい奴扱いで共感などはされなかったであろう、ということである。だったら現代で名画にスープをぶっかけたりパイプラインを爆破するような人間が100年後には100年後の価値観の中で英雄的な扱いを受けていても何ら不思議ではないだろう。
どういう立場で観るかによって感じ方はかなり変わるだろうがとにかく勢いとパワーのある映画だ、というのはそういう意味である。絶妙なバランス感覚でもってAサイドの人もBサイドの人もみんな納得して感情移入と共感でもって楽しく観られるような映画ではない、ということだ。その過剰さには当然悪い面もあるのだが、俺はそう悪いもんでもないと思う。
そして尖った内容でありながらもケイパーものとでもいうか、サスペンスフルなクライム映画としても緊張感を維持したままドラマが折り重なっていく作りがよく出来ていて作劇の技術も高い。まるで自分も主人公たちのグループの一員にでもなったようにハラハラしてしまう作りは見事である。ネタバレになるからオチは書かないが後半の展開も中々に見事であった。そこは正直上手く描きすぎていてメッセージ的にどうなのよとさえ思ってしまうんだけど、娯楽としての映画ということで楽しめるラインを見定めたというならまぁ分かるところではある。
もっとやっちまえよ! という人も中にはいるだろうがそこは上記したように本作の内容を事前に知っているかどうかで印象が変わるかもですね。俺は何も知らんかったからこれくらいでも十分満足感があった。
個人的にはかなり美味しい役どころを貰ったカップルが好きだったですね。あの二人のお互いを大切に思う気持ちっていうのは本来は国家の礎のはずなんだよな。でもそれがこういう形で噴出してしまう。最初の方にも書いたようにそれが正にバカな若者って感じなんだけどね。いやでも、面白い映画でしたよ。
上記したように観た人の立場や考え方でかなり様々な意見が出ると思うから、できるだけたくさんの人が観て遠慮せずにガンガン素直な感想を言ってほしいっていう感じの映画でしたね。俺は面白かったです。
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