オルキリア元ちきーた

愛と青春の旅だちのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

愛と青春の旅だち(1982年製作の映画)
3.8
1986年にトムクルーズがトップガンを作る際に、1982年の本作をベースにしたのは明らか。

品行方正をウリにしてるトムは流石にこの主人公ザックメイヨーの劣悪な生い立ちやヒロインの置かれる環境まではパクれなかったのか、とりあえず「親父も優秀なパイロットで息子もその破天荒さを引き継いだ天才的テクニックの戦闘機乗りでバイクも大好きマーヴェリック」という設定で「トップガン」はスタートするが

本作はその少し前、士官候補生訓練所に入隊する所から物語は始まる。
主人公ザックメイヨー(リチャードギア)は幼い頃に母親が自殺し、一度も会った事のない海軍兵の名ばかりの父親の元に引き取られる。
父親はだらしがない奴で赴任先のフィリピンの米軍基地の近くにある娼館に居座る不良軍人で、ザックもそこで不幸な少年時代を過ごすが、入隊年齢に達し士官学校に行く事で自分の運命を変えようともがく物語。
ザックのバイクはカワサキじゃなくてトライアンフです。

キューブリックの「フルメタルジャケット」の様な過酷な訓練の様子と、士官候補生の青田刈りで玉の輿を目指そうとする貧困から抜け出したい女性たちとのロマンス…というより欲望の駆け引きも描かれる。
鬼軍曹ビリー隊長…じゃない、フォーリー軍曹がまた良い感じ。汚い言葉で訓練生を罵倒叱責するけど、ヤバいと思えば進んで助けに行ったり、なるべく落伍者を出さない様にちょっと見逃したり、実はとても優しい。このシゴきの期間が終われば訓練生達はみんな軍曹よりも階級が上になり、昨日まで罵倒してたのに最後には敬語で敬礼して送り出す立場になるのに徹底する所が素晴らしい。

邦題は「愛と青春の旅立ち」なんていう甘ったるいイメージに改題されてるけど
原題は「士官と紳士」an Officer and a Gentleman です。
これはどういう意味か?というと

軍人は士官や紳士に相応しくない行為で有罪容認
…すべての士官・将校兼陸軍士官学校生徒、海軍兵学校生徒は、軍法会議の命令によって処罰される

という軍法が存在しているそうで
果たしてこの主人公がやっていること
…よろしくない素性や腕の入れ墨や上官に対する反抗や備品の横流しの小遣い稼ぎなどなど…
は、本当の士官や紳士に相応しいかどうか?
という「含み」が入っているタイトルであるそうです。

主人公ザックのハスに構えた狡賢さも、女の子に対する冷たい態度も、生意気な反抗心も、現実の訓練の辛さやヒロインの真摯な向き合い方によって「父親とは違う真っ当な人間になる」という本来の目的に次第に真剣に取り組んでいく流れを、それとなく彼の行動で読み取らせる手法がステキです。

そして真面目に女性と向き合おうと決心した親友の運命と、女性との関係を突き放していたザックのそれが交差していく対比の皮肉さも見事に描かれていて凄い。

イケメンの主人公が青臭い不良から立派な一人前の士官になって彼女を迎えに行くシーンは女性ならウットリしてしまうかも。

でもそこは最後のオマケみたいなモノで、本作は一人の男が自分の運命を断ち切り新しい人生を切り開くストーリーでもあり
貧困から這い上がろうともがく人間へのエールでもあると思う。

「俺にはもう帰る所なんて無いんだ!」と叫ぶ事が、人生には必要な時があるのかも知れない。