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花腐しのmuraのレビュー・感想・評価

花腐し(2023年製作の映画)
4.5
最後の2分とエンディングロールで一気にグッときた。まさか泣ける映画とは思わなかった。極上のロマンポルノ(いや、ピンクか)。これまでの荒井作品のなかでいちばんノレた。

ピンク映画の監督をつとめるクタニ。といってもほとんど撮っていない。あるとき、同じく監督をつとめる桑山が死んだ。女優の祥子と心中をはかって。2012年、震災直後の東北の海に身を投げて。クタニと祥子は、6年前から同棲をしていた。祥子がなぜ死んだかわからずにいたクタニは、古びたアパートに住むイセキと出会い、酒を飲みながら祥子のことを語りはじめる。イセキも、はじめてつきあった女のことを語りはじめて…といった話。

いい大人の失恋の話。男の。この過去の女をふり返る、情けなくウダウダとした感じが我ごとのように思える。クタニに自分を重ねてしまう。だからノレて、引きこまれ、そして最後に泣けるのか。

これはネタバレにつながるんだろうけれど、ふれないことには映画の魅力を語れないかなと思いあえて書くが…原作はこのとおりなんだろうか。途中で少しだけ見せ、最後にすべてを見せるカラオケの場面があるが、そこで歌う山口百恵の『さよならの向こう側』に沿った物語にしたのかと。

とにかくこの曲がハマる。この映画の感動は、この曲によるところも多いんじゃないかと。最後にふたりが歌うところで涙が止まらなくなった。

斜陽のなかにあるピンク映画の話が面白いし、一方で切ない。ピンクにかかわる監督や俳優をそろえ、また現在をモノクロで、過去をカラーで描くが、これはパートタイムカラーを意識したものか。最後の「これは必要なの?」というカラミのシーンも、カラミは必須とのピンクのルールを尊重してのものかと。

こういったこだわりは嫌いじゃない。いや、むしろ好み。『Wの悲劇』ばりの「顔はぶたないで、わたし女優なんだから」も、「おおいた麦焼酎二階堂」ばりの「三階堂」も、思わず笑った。

それを抜きにしても、ロマンポルノやピンクとして、いや一般映画としても傑作だと思った。
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