むーー。難しい。
良い所はあった。
ただ、気になる所もあるという感じ。
良い所としては、予告をはるかに超えてくる悪趣味描写。冒頭の切り株にたかるカニのシーンは不意打ちの悪趣味を思いっきりくらってしまった。予告からわかる所だと、遠藤憲一が刀に刺さった大福を食べさせられるシーン。他の監督だったら絶対にしない心配を、冒頭の悪趣味と北野武監督というのが合間ってめちゃくちゃした。どうなるかは是非観てください。
そして、北野武映画と言ったらという感じの、オフビートな会話劇は楽しかった。特に今作は、全キャラクターが真意の読めない悪人たちとして描かれているため、発言の一つ一つがどこまで本気なのか冗談なのかが分からない不穏さがあり、笑っちゃうんだけど怖いという感じは、いつもながら流石と思った。
あと、最近レジェバタを観ていたというのもあって、合戦シーンは凄かった。観た感じレジェバタほどお金があったようには見えないのだが、泥臭くて血生臭い戦闘というのを本当に工夫して見事に描写していた。こうして観てると、やはりお金があれば良いという問題でもないんだなぁとしみじみ思う。
ただ、気になる所。
一番気になったのは、今作のBLシーン全般と言っていいだろう。歴史解釈として、織田信長×森蘭丸や織田信長×明智光秀というのは、本当に擦られまくったカップリングなわけだが、今作にはそれらに妄想させられるホモソーシャルまたはホモセクシャル的なロマンスがまるでない。描写としては、「ブロークバックマウンテン」よろしくな過激キスシーンやセックスシーンがあるわけだが、それらは単に過激である以上の物語文脈を成していない。加瀬亮の信長に関しては、まぁあらゆる事を道楽としてやってる所があるので、それでも良いのだが、明智光秀と荒井村重の関係はそれではダメだろう。光秀が村重を匿っている事には恋愛感情以外のメリットは皆無なわけで、そこが出世のための戦略上切り捨てられる関係って事になってしまうと、それまで関係を担保していたものは何だったのかが分からなくなってしまった。
端的に言えば、今作はBLシーンに至る前段階のブロマンスが大いに欠けているのだ。先に「ブロークバックマウンテン」の名前を出したが、あの作品は過激なキスシーンがあったから良かったのだろうか？そこに至るまでの表にできない感情が爆発した瞬間として昇華されたからこそ、あのキスシーンは高揚させられ唖然としてしまうのではないのだろうか？
少し思ったのが、今作で北野武がやりたかった全員悪人というテーマに、このブロマンス部分は引き摺られて失われてしまったのではないか？という事。今作は積極的にどのキャラクターも真意が見えないようにしている。これは明智光秀も例外ではなかったという事だ。光秀の村重に対する愛情の変化というのは見えないし、描かれていない。結果として、明智光秀はこの映画内では見るからには唯一良い人なのだが、このテーマに沿わせるために「実は〇〇でした！」と悪人に転向させられたように見えた。本来あるべきはずのブロマンスは、この全員悪人のテーマに引き摺られて失われた結果、物語文脈に乗っていない単に過激なBLシーンだけが残ってしまったのかなと思う。残念ながら、私は過激なBLシーンだけ与えられて萌える系の腐女子ではない(実際そういう腐女子はそんなに多くないと思うのだが...。)ので、「舐めてんのか！バカヤロー！」って気持ちが観終わってからはあった。
端的なまとめとしては、戦国時代を舞台にしたアクションと北野武の会話劇は面白かった。これだけのために映画館で観るというのも、全然良いとは思う。ただ、私としてはBLをやるなら、もっとちゃんとやれ！という感じです。
