スカポンタンバイク

オッペンハイマーのスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
ノーラン監督という事で、流石真面目な映画を作ったなぁと思いましたね。
原爆という題材に対して、科学の進歩を探究するという未知への挑戦のワクワク感をちゃんと描きながら、同時にそれによって生み出してしまった恐ろしい兵器としての表現を両方やってるのが、本当に作家として真摯だし真面目だなぁと感じた。

筆者は、前半90分くらいは絵としてほしい所が全部説明と会話劇で展開されるため大変退屈で「この映画大丈夫か...」となっていたのだが、トリニティ実験をいざ始めようとなった所の描写が大変素晴らしかったというのは言っておきたい。あれは科学の論理が実証された瞬間の多幸感に溢れていると同時に、純粋に生み出してしまった原爆というものの恐怖が両立して存在していた。日本人的には、あの成功に歓喜するシーンは居心地の悪さを覚える人もいるかもしれないが、筆者としてはその歓喜をちゃんと描いた事が寧ろ原爆をテーマに真摯に向き合っているとも感じた。それはやはり、ノーラン監督自身がこの映画を完成させる事への映画作家として挑戦欲と、それを作った後の世界への影響を強く信じて考えているからだろう。これまでもノーラン監督は、自身の映画制作をメタ的に話に盛り込む構成が顕著なため、今作においてのオッペンハイマーに自分を重ねている所は大いにあると思う。筆者は、ノーラン監督がそういう形で映画作家の功罪に向き合っているという点を今回大変好感を持った。

ただ、好感は持ったのだけれど、映画としての出来に関しては首を傾げる所がある。本作は登場人物が物凄く多くて、時系列が飛びまくるにも関わらず、その間に説明が入らないため、大変難解と言われているわけだが、やりたい事をやった結果難解になっているのと同時に、その語り口があんまり上手くないんじゃないかと思った。特に前半は、シーンのつぎはぎが極端に多くて、無駄にガチャガチャしていて忙しない印象を受けた。つぎはぎ編集に加えて、ノーラン映画恒例の無駄に多い説明シーンがその分かりにくさを加速させる。とにかくノーラン監督は、絵にしてくれれば分かりやすい且つ映画が面白くなるような要素を説明のみで処理してしまう癖が今作まで延々続いている(それが「テネット」のように説明すればするほど矛盾に塗れていくと「寝ろ」とか言い出す始末。)。
特に絵にしない問題で大きいと思ったのが、オッペンハイマーの科学者としていかに有能なのかが絵として見えてこないため、科学者としての能力が全然ピンとこないのだ。絵として見せてきたのは、学生時代に試験管を割ったドジッ子エピソードと、ドイツで核分裂に成功したと報告を受けて「そんなのありえない」と数式書き始めて「やっぱりな」となったシーンくらいなので、ポンコツで凡庸な印象の方が強い。そのため、今作でのオッペンハイマーの凄さというのは、周りの科学者が褒め称えてるというのとキリアン・マーフィーの演技力におんぶに抱っこという感じが凄くある。
逆に言えば、俳優としてキリアン・マーフィーの演技力は凄い。血が通ってない傲慢な感じと、原爆を完成させて以降の不安で狼狽していく感じが物凄く良く出ていた。

色々書きましたが、総合的には面白く観ました。今一番劇場で観に行った方がいい映画である事は間違いないかと思います。色々意見があるとは思いますが、まずは自分の目で見て、あれこれ考えるのが大切な映画だと思います。是非、劇場でご覧ください。