スカポンタンバイク

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

3.7
筆者は原作を5巻くらいのあたりで挫折したのですが、それくらいの目線の人間としては、後半の知らない話が出てきてからが面白かったです。端的な事としては、この映画の問題は原作自体の功罪だろうなぁというのが前章まででの印象です。

◯原作について
まず、私の原作への印象としては、端的には「情報が無駄に多くて読みにくい」という感じだった。1話読んで頂ければ伝わると思うが、とにかく日常背景や宇宙船の描き込みに代表されるように、極端に余白が少なくうるさい漫画だ。この緻密な描き込みこそ、正に浅野いにお先生の魅力であり、それによって生み出される「息苦しくて延々救いのない気怠さ(筆者は、緻密に作り込まれたつまらなさと言ったりもする。)」が彼の漫画自体の最大の力だと思う。ただ、デデデデに関しては作者がどこかで言った「自分の作品で最もキャッチー」な要素がとにかくノイズだった。所謂、分かりやすい現代アニメチックな一面的なキャラクターが織りなす日常コメディが鈍重な日常描写に対して上滑りしてる感がずっとあって、キャラクターのほのぼのコメディにも従来の浅野いにお鬱屈日常ものにも集中しきれない、どっちらけな漫画で、とにかく読み進めるのが自分の根気なしには難しかった。つまり、根気がなくなった所で読まなくなったわけだ。

◯アニメについて
そこにきて今回のアニメなのだが、今作がとにかく良かったのは「見やすい」という事だ。何が見やすいって、背景が良い意味でうるさくないのだ。普通これを褒め言葉として使う事はないのだが、今作はアニメーションとしての完成度のためか、浅野いにおの異常な描き込み要素はグンと抑えている。つまり、原作と比べて安っぽいとも言えるのだが、これによって原作で上滑りしていたキャラクターたちの日常感と世界観との親和性は逆に上がっていた。そういう意味では、浅野いにお先生が目指したキャッチーさという点をアニメは原作以上に達成したと思う。
ただ、逆に気づいた事もあり、そもそものやり取りはそんなに面白くない。個人的に浅野いにお先生のギャグセンは自身の作風と合ってるとは思えないので、止めた方がいいんじゃないだろうかと思った。結果として、この日常感にノレない人は前半相当辛いと思う。
ただ、悪いなぁって所もあって、原作の冷めた部分を再現しようとしてる箇所がいくつもあるわけだが、そこが漫画の見開きでは効果的なのに、動きのあるものとして流すと違和感っていうのは結構感じた。おんたんが1人で宇宙船を見た帰りに門出と合流してからの背中ポンポンは、漫画だともっとドラマチックに見えるのだが、アニメだとなんかショボい。特にキツかったのは栗山キホが死んだ直後のやり取り。おんたんの「知ってるよ!!」は原作だと結構キツイのだが、アニメはどうもズルズル流れてしまっていて、おんたんのせっかくのギャップ振れ幅がショボくなってしまっていた。

◯まとめ:前章を観てモヤったこと
筆者が最初にデデデデを読んだ時に思ったのは「どんな災害や人災も気怠い日常に溶けて腐っていく」という、遭遇ものへのアンチテーゼをやりたい作品なのか?という事だった。それは正に浅野いにお先生であれば「ソラニン」に代表されるように延々やってきたテーマだと思っていたからだ。
筆者は前章の後半には結構楽しんだというのは前述した通りなのだが、そのテーマを考えた時に、この後半の展開は良かったのか?と考えてしまった。後半は正に遭遇ものの典型であり、だから楽しいのだ。ただ、ダークヒーローの誕生という意味ではポジティブな遭遇ものへのアンチテーゼにはなっているのだが、それは前半に見せられた日常の気持ち悪さからすると、アンチテーゼの矛先がブレている気がした。漫画を描いてる間にやりたい事が変わっていただけかもしれないが、そうなると後章は一般人の等身大の日常感からはどんどん遠くなってくのかな?と思った。それでも別に良いのだが、そうすると普通の遭遇ものに落ち着いちゃう感じがして、最初に打ち上げたテーマからすると、尻窄み感が否めないなぁと。まぁ全ては妄想でしかないので、後章に期待大です。