taiking

キリエのうたのtaikingのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.0
恥ずかしながら岩井俊二作品初鑑賞。ちなみに原作は読んでから観た。

何はともあれ、アイナ・ジ・エンドが主演だから観た、というのが本音である2017年、彼女の歌声に完全に惚れてBiSHが大好きになったわけで、そんなアイナが映画の主演となったら観るしかないのである。

愛と祈りの物語であり、何と言ってもアイナのための音楽映画だった!というのが一番の感想。震災を真正面から描き、4本の物語の軸を飛び飛びで描きながらも没入感を持って描くストーリーライン、何と言っても岩井節なクセありすぎなショット・演出。それによって生まれるエモーショナルさ。美しく、そして常にどこか苦しく切なかった。アイナのハスキーボイスはキリエ(ルカ)のためにあったのではないかと感じる程に180分アイナの表現者としての素晴らしさを感じれる作品だった。苦しく切なく美しい物語のトーンに、彼女が発するオーラ全てが完全にマッチしていた

以下ネタバレです







原作読んだ時からストーリーの内容で「ん?」と思うところは結構あって、例えば性暴力シーンは正直不快以外の何者でも無かったし必要ないだろと思っている。嫌がるとこまではまだ良かったんだけど受け入れるあたりの縁起が不快。あんま今の時代にはそぐわないよね。あといろんな人間が出てくる割には「結局どうなんねん」と投げっぱなしな感じも否めない。震災のシーンだって映像化されることでキリエが下着姿だと分かるわけだがその必要性も感じず。ここら辺は割とノイズだったポイント。。。マオリがなぜイッコとなったのか、イッコはあの後どうなったのか、その辺の掘り下げは小説だとある程度されているのだけど映画ではバッサリなので、割とエモーショナルかつ重要に演出されるルカとイッコの関係性がなんか希薄に感じちゃった。そもそも原作の時点でイッコに関してはよく分からんかったのでしょうがないかも。この辺のポイントなかったらグググっとスコアも高くつけたい作品ではある。

でも、そんな気になるポイントを全て凌駕するくらい美しいショットとアイナの魅力で3時間ずっと惹き込まれた。アイナの絞り出すようなあの歌声が、キリエという名を背負ってある種祈りを捧げ続ける彼女に余りにもピッタリすぎた。メインの主題歌以外をほとんどアイナが作詞作曲しているのもめちゃくちゃ凄いし、もはやアイナとキリエの境界線すら怪しいレベル。でもとにかく2010年石巻パートでの夏彦キリエの2人が良すぎちゃった。純粋かつ熱すぎる恋と情動の感じと、アイナのどこか掴み所のない妖艶なオーラがビタリ合いすぎ。(いやあ・・・映画でこういうシーンをやるようになるとはな・・・、とファンとしてなんか感慨深くなったり。)あの辺のシーンも、キリエは最終的に亡くなると知ってるから美しいのにずっと苦しい。震災の日の映像もずっと夕日と石巻の街が美しいですよ。残酷なまでに。そんな中生き残ったルカは希望の子であり、だからこそ彼女は祈りを捧げながら歌い続けているのだなと。個人的に姉妹どちらもアイナが演じていることにあまり違和感は感じず。逆に別な人なよりも物語の説得力は出ていたんじゃないかな。とにかく夏彦の後悔と罪の念、といった表現も良かったな。残酷なまでに。

衣装もいいよね〜。ライブしてる時の青いワンピースもいいけど、個人的には黒の衣装がめちゃくちゃ良かったな。

キャストもチョイ役までめちゃくちゃ豪華で楽しかった。裏MVPは石井竜也かもしれない。笑 七尾旅人が良かったな〜エンドロールがルカと七尾旅人の歌なのがまた良い。最終的には音楽の力を我々に伝えてくれる映画でもあった。野外で音を鳴らせば確かに迷惑行為かもしれないが、そこには人々を動かす力や祈りだって込めることができる、そんな唯一無二の表現なのだ。


大好きなシーン
・帯広にて、雪に寝転がるマオリとルカ
→これあまりにもエモーショナルすぎ。美しい。これと対比されるラストの砂浜のシーンもベリーグッド
・石巻、神社で愛し合う2人
→美しく、純粋で、そしてあまりにも切ない
・キリエがアーティストとして認められていく感じ
→音楽が好きでやっている身としても、あのクリエイティブな感じがすごく楽しい
taiking

taiking