むぎたそ

PERFECT DAYSのむぎたそのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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海外のミニシアター(Acadeny Cinemas,Auckland)で観た。
ヴィムヴェンで日本って文系オタしか観に来てないはずなのに、やつら文化の違いでエンドロール絶対最後まで見ないから、最後の「木漏れ日」見逃してたよ〜。ってか映画館もエンドロールの途中で電気ついて、スタッフが場内チェックしに来るんだよな……。余韻に浸りたいんだから、内容によってはやめなさいよね。余韻に浸るって私は大好きな行為だけど、今流行りのタイパ的には悪そうだね。(まあレイトショーで私含めて7人くらいでしたが!)
まあSpotify知らない(おそらくネット世界と接続してない)平山とタイパとは対極の世界。
平山みたいに顔が整ってたら女が寄ってこないはずないからいくつかあった中学生みたいな純情描写(着替えや抱き合うとこ見たり、普段ショックで吸わないタバコ買いゲホゲホ)はちょっとな……ギャグだろうけど。まあおとぎばなしだからいいや。
カセットはたくさんあるのにCD選ばないとか、部屋のものの少なさとか綺麗さとか、こだわりがすごいというか、美学(哲学)なんだろね。最初、しゃべれないキャラかと思ったら、普通にしゃべるし、ちょっぴりミステリ仕立ての?キャラのばらしかたよかったな。小説的で。対する人によって、関係性や見せる自分の部分も違うよね。
平山から見てちゃんとしてない人(この場合は柄本時生)には、ほとんどしゃべらない/しゃべる必要ないとみなす、とかさあ、相当シビアな人だよね。すげージャッジ人間じゃん。べつにやさしい人じゃないよね。(でもなんだかんだお金貸しちゃう甘さとかあるの人情というより魂がボンボンなんだろな。)
姪とはちゃんとコミュニケーションとるし。まあ、普通の常識人ですね。バイトとんだときは普通に電話で声荒げてたしな。あれが元の姿だよな。挨拶ちゃんとするキビキビした安藤玉恵にはニヤニヤしてたし(合格なんだろう)、まあ育ちのいい人なんですな。わかりやすいね。
何があったか知らないけど(説明しないのもいいね)、本当は普通に(というよりそれ以上に)暮らせる社会性や家柄や知性もあるのに、なんらかの理由(親との確執を匂わせ?)で、掃除人とアパート暮らしを選んでる。だからなあ、ああいう趣味没頭系高齢独身おじさんは日本にたくさんいるけど、普通はあんなに社会性ないしもっと世界が狭いから人に攻撃的だったりするよね、そしてあんなに小綺麗じゃないよね(偏見)っていう。平山は貴族なんだよな。あれを選ばなくてもいいのに選んでる。あの暮らししか選べない人とは決定的に違うわけだな。
あと、おじさんだから(そしてついでに役所広司だから)かっこいいけど、同じことおばさんがやってたらどうなのだろうかとかちょっと思ったな。(ははは、私も趣味がかなりかぶっている!あーつまり趣味に没頭するオタクを肯定してくれる、つまり勘違いさせてしまう映画なのだな。)
つまり平山は全く弱者ではないので、SNSでいくつか目にした「掃除人などの仕事を選ばざるを得ない社会階層の人間の悲惨さを隠蔽している/日本の社会問題から目を逸らしている」みたいな意見はこの芸術作品の感想としてはちょっとズレている気がしたのだ。いや、気持ち的にはわかるけど。

柴田元幸さん目視。(よくみなかったけど部屋の本はポール・オースターとかなのかな?確かに、日本文学ではなくそういう世界文学にしとけば、ヴィムヴェンもそれらを読みやすく平山の夢の世界を創造しやすそう。)犬山イヌコも石川さゆりも三浦友和もキャスティングいいね。微妙にあざといとこまで行ってない気がした!よいばらんす。

高崎さんには学生時代にお世話になって少し知っているのだけど、あの巨大な会社で事件とか権力とか肩書きとかいろいろあると思うんだけど、一貫して、創作や物語や小説や向田邦子あたりが好きな映画少年(映画オタク)なんだろうな、という印象です、自分はずっと。それが、世界的監督とタッグを組んで、良い方向に力を発揮できたのではないでしょうか。
ホノカアボーイも悪くなかったし(いまさら)、私は好きだった。
ただ、トイレは、いくらプロジェクトでも、撮影ではあのトイレを使わないで普通のトイレだけ使って、クレジットだけ入れるとかにしたら、もっとかっこよかったのではないだろうか。これみよがしにあのトイレが出すぎる。

平山が見る夢の部分が、さすが巨匠!な映像表現だわ。あれは小津の無人ショット重ねを感じたよね、他の古い日本映画の表現も感じたが。無口だからこその豊かな感情表現のバリエーション、さすが役所広司でした。台詞ない場面、いいなー。無口なキャラってそれだけでワンアイデアだな。役所広司ほどの芸達者だからできる豊かさではあるが。
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