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落下の解剖学のBATIのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
「裁かれているみたいだ。」という台詞があって、それは即ち表舞台に立てば皆裁かれてしまうことの暗喩に感じた。

予告やポスターで想像していたサスペンス/スリラー風味を期待していたら相当肩透かしを喰らうと思うが、アントニオーニの「欲望」と根は同じ映画に感じた。真実は何か?妻は夫を殺したのか?裁判の行方は?ということは作品のテーマではない。真実とはある一方の視点によって形成され、言説で埋め尽くされていき、その行く末は戦犯探しであり、「こいつは悪いやつだから罰が与えられるべき」という結果を求める。まるで蜜を求める虫のように人はそこに向かう。

だが誰もその現場を見ていない以上、全ては「こうあって欲しい」というか願望と推測の域を出ない。状況および人とは「視点」でしか語られず、そのどこにも真実があるように見え、ないものも存在し得る。だがそれは真実といえようかという現実の陽炎について語るような作品であった。

法廷劇については正に検察と弁護側の潰しあいがテクニカルに描かれ、被告と証人の虚実のグラデーションが揺らぐところもリアル。そしてこれはインターネットの言説についての話かもしれない。

夫婦喧嘩とてもリアルだった(あんな激しいのはやったことない)。どちらにも非があって、結局口喧嘩と話のすり替えが上手い方が勝つだけというのと裁判の構造そのものであった。

最近、正しい人間が一人もいないことを描く映画に一定の信頼を置きがちな自分がいる。
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