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キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのBATIのレビュー・感想・評価

4.0
話はいつものスコセッシのチンピラrise & fall.だけど、こんなにどうしようもないセクシーさも狂気もない流されるだけの男をディカプリオが見事に器の小ささまで表して演じていることに感心した。それでいて罪を数えたあとの「男の人生!」なんて全く映さない。これだけ時間をかけて先住民族への寄生と謀略・搾取・略奪を三時間かけて描いた先の顛末など「映画になりようがない」と断罪するかのように「映画的な手法」で描く。この3時間半のボリュームで描くことができるのも許されるのもスコセッシが故だろうか。だからこそのラストシーンかもしれない。話自体が自身のシグネイチャーであることを自覚している。

「アイリッシュマン」から男の有害さについて面白くそしてカッコよく描いたことを内省するような作風になっていたけど、本作はそこに加えて白人の文化盗用、侵略と搾取というテーマがある。「後ろから撃つ」を徹底してやっている。「こいつが本物の悪魔なら納得いくのに」というレベルの鬼畜を働くの紳士の顔をしたメンターがロバート・デ・ニーロであることも自己作に言及的な配置だったし、機能していた。

数々の賞にノミニーされたのも納得のリリー・グラッドストーン大地のような安らかさと器量を纏うモリーが悲劇に遭って悲嘆に暮れる表情、病に弱っていく姿の「死に蝕まれている」有様はこの作品随一の存在感。出番は少ないもののビリー・プレモンスの「法を執行するためだけに来た」という温度感もとてもアクセントになっていたと思う。

長い映画なのは間違いないのだけど、無理に長くしている印象はないし、省けそうなところもそうない。人は沢山出てくるものの整理された脚本だし、やはりスコセッシの映画作りの上手さを感じた。弱点を言うならば白人側から描いた映画でありすぎることだけど、そこはスコセッシの限界であり「公平さ」をもって描こうとするとそれこそ映画になりづらい。特にスコセッシの映画には。

亡くなってしまったロビー・ロバートソンのスコアは見事で、スライドギターの悪魔が喉を鳴らしているかよようやフィーリングは随一だ。悪魔のような人間ばかりの物語にはぴったりだった。
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