九月

落下の解剖学の九月のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.7
サスペンスの色が強いのかと思っていた観る前の想像とも異なり、観ている間もこの映画や主人公に対する印象が変わり続ける。最後まで観て「解剖学」というタイトルが言い得て妙で素晴らしいと思った。

人里離れた雪山で暮らす一家を突如襲った父親の転落死という悲劇。
客観的に見て最初は事故としか思えなくてこれ以上どんな展開が待っているのか想像がつかずやや退屈で、しばらくは物語の起伏もなだらかだったのが急激に激しさを増していく。

この家族が暮らす山荘の内装や、周りの大自然などは見ていて心地が良く、ザンドラ、ダニエル、スヌープそれぞれの演技にもみんな引き込まれた。
特に、オスカーの授賞式にも来ていた、犬のスヌープを演じたメッシくんの演技にびっくり。普段犬と生活を共にしているので、途中かなり心苦しい描写があったが、一体どうやって演じたのか驚いた。視覚障害を持つダニエルとの関係性が最高にクールかつ温かくて、胸が熱くなった。

※ネタバレ注意





世の中には0か100、白か黒で判断できることは少なくほとんどないと分かっていたはずなのに、途中までこの映画に対してもそれを求めていたことに気付いた。

負けは負けでしかないが、裁判に勝利したからと言って大きな充足感が得られ全てが終わる訳でもなく、思っていたのと違う…と草臥れた様子のザンドラが印象的。

時として自分のことさえ分からなくなることもあるというのに、他人を理解する、話し合いで解決する、なんて不可能に近いのではないかと思えてしまった。
また、記憶や印象というのも自分本位で移ろいやすく脆いものだと感じた。

普段生きていて薄々感じていたようなことが至る所に散りばめられていて、脚本と演技によってさらに引き込まれた。
九月

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