しみじみとよかった。もう偉大なるマンネリズムの域に達したシンプルなボーイ・ミーツ・ガールにしみじみとする。これまでのカウリスマキ作品よりも自然な感じに撮られてる。照明と美術は相変わらずバキバキで美しいが、無表情で台詞がほとんど無くて、という従来のスタイルとはちょっと違う。ラストのロングショットも空気が通ってる感じで、じんわり泣けてくる良さがある。
ウクライナ侵攻を受けて本作を撮ったとのことで劇中ラジオからそのニュースがずっと流れてて、「こんな戦争いや」と吐露する台詞があり、珍しくストレートにカウリスマキの思いが代弁されている。
貧困層、テイよく切られる労働者がここでも主体になっていて、『ル・アーヴルの靴みがき』以降みられる移民の人々があちこちに登場する。と同時に弱者同士の連帯、共助、温情がちりばめられており、それはほんとに温かい気持ちになる。理想でしかないとしても、生きてくなかでこうありたいと思う理想を現したいというカウリスマキの意志が、強く感じられる。
二人の観に行く映画がカウリスマキの盟友ジム・ジャームッシュ『デッド・ドント・ダイ』で、観終わった観客が「ブレッソンの『田舎司祭の日記』みたいだった」「いやゴダールの『はなればなれに』だ」と語り合う。目くばせにも程があるという微笑ましいシーン。その映画館の壁にはブレッソン『ラルジャン』の大きなポスターが貼られている。ドアのところにはドン・シーゲル『殺人者たち』のポスターが貼られているのも嬉しい。
血塗られた札束を握る両手が描かれた『ラルジャン』のポスターを背景に、二人の握手がアップとなる。この相反のシンクロがなんとも味わい深い。