アー君

枯れ葉のアー君のレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
3.5
引退宣言をしていたので、まさか撮るとは予想だにしなかったが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響、監督であるアキ・カウリスマキの出身はフィンランドであるが、ロシアと国境の近いため安全策としてNATO(北大西洋条約機構)の加入などもあり、彼なりに戦争に対する危機感が映画製作を駆り立てたのだろう。ネットではなく敢えてラジオから終始放送される戦争の状況は、俳優たちの棒読みのセリフと対比するように、生々しくドキュメントであることを訴えていた。

中年の男女がすれ違いによる、淡々とした大人の恋愛劇に見えるかもしれないが、背景にある戦争という矛盾を仄めかしているが、メッセージには力強さが込められている。

映画としてのトーンは何気ない日常で、ドラマのないことがドラマとして成立された作品であった。本人も公言をしているが、小津安二郎の影響は手に取るようにわかる。素朴感やノスタルジーに対する美しさのこだわりは、中期つげ義春の短編のようでもあった。

映画館で親友であるジャームッシュが上映されていて、この映画を観終わって観客がブレッソン「田舎司祭の日記」とゴダール「はなればなれに」を引き合いに議論をする場面など彼なりのユーモア感覚は健在である。

ウクライナへの侵攻や昨年の中東の紛争に対して声高に戦争を批判する方法もあるかもしれないが、アキ・カウリスマキのような切り口で、静謐(せいひつ)に描くやり方でも映画を通して間接的に訴えかけるのであれば、彼のような表現方法に賛同をしたい。

パンフレットは加工が凝った仕様。海外のタイポグラフィはTimesとBodoniが混ざったローマン系フォントであったが、デザイナーとして監督に思い入れがあるようで、映画を鑑賞した上でオリジナリティのあるサンセリフ系に変更している。メインである本文の紙もクリーム色で見やすい仕様であった。

[シネマカリテ 12:45〜]
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