九月

哀れなるものたちの九月のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.8
ヨルゴス・ランティモス×エマ・ストーンというのが楽しみで、当時絶版となっていた原作を図書館で借りて一足先に読んでいたが、映画はさらに面白かった。多重構造に惑わされる原作からは一体どう映像化されているのか全く想像がつかなかったけれど、省くところは潔く省かれストーリーの大筋や世界観はそのままに、また一味も二味も違うものになっていた。とりわけ、エマ・ストーンによってベラ・バクスターの物語が、観ている自分の人生まで抱きしめたくなるくらい、もっとずっと愛おしいものに映った。

世界を旅することによって、エッグタルトや暴力、貧困…などベラが急速にあらゆることを知り吸収していく様子は、普段映画を通して自分がこれまで知らなかったことや経験したことのないことに触れ、衝撃や感動に包まれるのとどこか通ずるものを感じる。
いわば人によって創り出された存在であるベラが、自分や自分の身体、心、ひいては人生を、他の誰でもない自分のものだと自覚していくところに、何とも言えない胸がいっぱいになる感覚があった。

全体的には、面白可笑しく、かなり突飛な描写も多くてギョッとしたり笑ったりしっぱなしだったが、芯の部分は通っていて感動すらするという、思いもよらない味わいだった。

プロデューサーとしても名を連ねるエマ・ストーンの演技にとにかく圧倒されるが(全時期の全人類の中でも凄い俳優のうちの一人だと思った)、脇を固める哀れなるものたちも皆良かった。二回観た。
九月

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