遅くなりましたが、遂に鑑賞しました『哀れなるものたち』。一言で表すなど到底出来ないほどに凄い映画でした。アカデミー賞へ一直線!!!!!
自ら命を絶った不幸な若き女性ベラは、天才外科医ゴッドウィンの手によって奇跡的に蘇生する。彼の庇護のもと日に日に回復するベラだったが、「世界を自分の目で見たい」とい強い欲望に駆られ、放蕩者の弁護士ダンカンと共にヨーロッパ横断の旅に出る。急速かつ貪欲に世界を吸収していくベラは、やがて時代の偏見から解き放たれ自分の力で真の自由と平等を見つけていくが......。
🖼独特かつ中毒性の強い世界観
まだヨルゴスのビギナークラスに属する僕が言うのもおかしな話ですが、彼のこれまでの監督作品の中でも群を抜いて、映像美と芸術性が強調されていると感じます。カメラワークや小物の配置、色使い、各キャラクターの個性などのめり込む要素が盛り沢山でした。序盤(モノクロ)のシュールな雰囲気とグロテスクな描写の組み合わせは『イレイザー・ヘッド』を想起させますね。先入観で見た天才外科医の狂気性は『私が、生きる肌』に通ずるものがあり、本作の主人公であるベラは、性の解放と真理を追求する運命を辿る女性を描く『エマニエル夫人』を彷彿とさせます。
⚔️反支配社会思想を散りばめたプロット
露骨とも言えるほど、男性ないし権力による支配社会への反発的な思想が含まれている本作。現代にも残る男尊女卑や男性優位社会、貧困問題、権力による支配といった世の闇を詳細に描いています。また、これらの構図がいかに単純であり人々の生活や精神を蝕む残酷なものであるかを、主にキャラクターたちの一癖も二癖もある言葉で表現する手法には陶酔してしまいました。
💃「哀れ」とは
本作における様々な「哀れなるもの」とは、キャラクターたちの人間性に焦点を当てて描写されていると個人的に感じます。博識かつ優秀でありながら、それゆえに他人の感情や一般的な道徳観を論理的にしか理解できないという欠点が災いし、水商売に手を出してしまったベラは「優位に立つはずであった人間の堕落した姿」を体現しています。天才外科医ゴッドウィン、学生として勉学に勤しむマックスの2人は「己の信念に固執する人間の観察力の低さや盲目的な姿勢」を表しているように見えました。自分自身が男であるのを良いことに、女性を手玉に取ることを生きがいとする弁護士のダンカンやベラの前夫アルフィーは「権力による支配や女性への蔑視を通じて歓びを得る行動の惨めさ」そのものを映し出していましたね。
📕未知の冒険の果てに
1人の女性として波乱万丈の時を歩んできたベラが得たものとは何でしょう。僕は「自由への喜び」ではないかと推測しています。哀れなもので塗れた地獄を耐え抜いた人間には、自由への喜びを得る権利がある。たとえ未知に踏み出すという選択が間違っていたとしても、最後には必ず自由が待っている。また、今まさに地獄を経験している人々にとっての最善の策は、周りのことばかりを視野に入れないことなのかもしれない。「どうでもいい」精神の偉大さを全身で感じましたね。なんと開放感のあるメッセージ性でしょうか。
👶エマ・ストーン👩
もう、これでオスカーを受賞しなければ......アカデミー賞もいよいよ信用できなくなるぞ。何が凄いとか言い始めたらキリがないので、まじで見てほしい。エマ・ストーンのキャリア史上最高の演技であったことは間違いありません。
ヨルゴス・ランティモスの新境地。様々な形態の男女不平等や権力支配の構図が未だ蔓延する現代に釘を突き刺す痛快な一本でした。清々しいほど下品で美しく、荘厳で愉快な冒険譚。今ある地獄を逞しく生きるすべての人々へ送る讃美歌のような大傑作。どえらいものを観てしまいました。超〜〜面白かった。