真鍋新一

極道戦争 武闘派の真鍋新一のレビュー・感想・評価

極道戦争 武闘派(1991年製作の映画)
4.1
90年代の東映ヤクザ映画は往年の素晴らしさに遠く及ばないのはわかっているので、極妻シリーズ以外はほとんど手を出せていない。この作品を観たのも松山千春がヤクザの役で中井貴一と堂々とタイマンを張るらしいと聞いて不純な興味が湧いたからだった。いくらなんでも松山千春に果たしてそんなことができるのかと。

しかし、彼は立派に演じきった。北海道生まれの彼に九州ヤクザの役なんて、中島貞夫監督はずいぶん無茶をさせる。ヒロインの増田恵子、敵のヤクザのジョニー大倉、ミュージシャン勢の演技がみな達者。そこに稲川淳二や若い内藤剛志まで絡んでくる。そういえば90年代の雰囲気ってこんな感じだったかも。

第一、タイトルが悪すぎるんだ。この「武闘派」っていうのは暴れ出したら手がつけられないヤクザ、松山千春のことを指しているんだろうが、極道モンの2人に翻弄される増田ケイちゃん目線のタイトルでもよかった。
極妻シリーズの成功に始まったトレンディ極道路線。賛否はあろうが、生き残りを図るためにヤクザ映画がトレンドを盛り込んでいくその貪欲な姿勢には好意を持っている。硬派なヤクザが少しでも色恋に関わるのは甘いのかもしれない。しかしあの時代はこれが正解だった。中井貴一と松山千春の間に立つケイちゃんの部屋で、さりげなく映されるオシャレな時計。時計の振り子が揺れている。こういうさりげないショットがいい。車載のゴツいケータイ電話とコードレス電話の通話シーンに代表される、ちょっと現実よりも進んでいる90年代の夢みたいのも映画ならでは。

そして松山千春が暴れるシーンの緊張感とキレ味。ほとんど説明もなく千春が敵の若いヤクザをボコして親分の居所を数秒で吐かせたりするのだが、映画は戸惑ったり、ちょっとわからないくらいのほうが面白い。セリフも九州訛りが多くて思ったよりも聞き取れない。中尾彬のセリフも無駄に小さい。わからなくても理解はできる。話が面白ければ、それでかえって真剣に観たくなる。丹波哲郎の大親分、綿引勝彦のアニキは黙って座っていても大丈夫。そういうものだ。

そんなわけで、90年代の東映ヤクザ映画は当時としてもそんなに評価されてないだろう。せっかくサブスクで観られるんだから、もっと再評価されてほしい。

60〜70年代中盤の東映東京作品には欠かせなかった出っ歯の脇役・沢田浩二がマシンガンの売人役で出てきたのがうれしかった。脇役すぎて出演作の記録もネット上では1984年で途絶えている。存命かどうかもわからない。元気で生きていてほしい。
真鍋新一

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