あんがすざろっく

市子のあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.2
公開時から、ずっと気になっていたのですが、見逃してしまっていた本作。
配信が思った以上に早くて、驚きました。


杉咲花さんの作品、見たことあるつもりでいたんですが、何と映画は初めてだったことに気付きました😳‼
朝ドラで「おちょやん」は見てましたけど、
CMとかでよく見てるから、映画も見たつもりでいたのかな…。



恋人の長谷川からプロポーズを受けた河辺市子。
しかし、次の日に長谷川が仕事から帰ると、市子は忽然と姿を消していた。
数日後に警察に捜索願いを出したところ、家にやってきた刑事から、長谷川は逆に問いただされる。
「河辺市子さんは、一体誰なんでしょう?」

このミステリーのような展開。
警察も市子の行方を追っていた。
しかし、過去の話を全くと言っていい程してこなかった長谷川と市子。

何故警察は市子を探しているのか。
何故市子は長谷川の前から姿を消したのか。
市子は一体何者なのか。

その壮絶な人生が明かされます。



これは、思った以上に重かった。
何と言っても、主人公市子の人生。
そして、これからの生き方。

杉咲花さんの存在感が凄い。
本当に、市子がその場で生きているんじゃないか、と思ってしまう。
見事でしたね。

恋人、長谷川役の若葉竜也さん。
この人も素晴らしかった。
過去を聞こうとしない、それでも市子と一緒になろうとした。
そこに、市子は安らぎを覚えたのでしょう。だからこそ、市子は逃げたんですね。







ここから、ネタバレありますから、お気をつけ下さい。




























まず、日本に無国籍の人が何百人、もしかすると数万人もいるのではないかということが一番の驚きです。
戦時中に、戸籍売買みたいなのがあったことは何となく知っていたのですが、今現在でも戸籍の問題って、そんなにあったんですね😨

戸籍がなければ就職もできない。
病院にもかかれない。
結婚すらもできない。
守ってくれる法律さえないのだそうです。


法務省で実体調査を2015年から始めて、そこで分かったのは無国籍の日本人が600人ぐらいだったようなんですが、回答があったのは2割ぐらいで、実際にはまだ無国籍の人は多くいらっしゃるとのこと。

今年2024年、その無国籍者の問題に関わる民法第772条という法律が改正されるそうです。
その改正で、どのくらいの人が法律で守られるようになるのか、助かるようになるのか。
本作は、そういった社会問題の提起もありました。


あのラスト、いろんな解釈が出来ますけど、市子の生への執着が描かれていて、背筋が寒くなりますね。

結局、市子は自分の過去を知っている人、しかもそれを理由に市子との関係を続けようとした人間を消す必要があったんでしょう。

僕、本作を見て一番腹立たしかったのは、森永悠希さん演じる北の存在です。

市子を守りたかった、市子のヒーローになりたがっていた北。
ある意味、市子を助けたような体になっていますが、それって、市子の隠したい過去を知っていて、それを元に市子を自分の手元に置きたかっただけですよね。
本当に市子を助けたければ、もっと他に助けようはあったのではないか。
確かに、北がいなければ、死体は処理できなかったし、北もその後の人生を狂わされたのだと思いますけど、見方を変えれば、市子を脅しているようなものですよね。

相手は過去を断ち切りたいのに、逆にその過去でがんじがらめにする。
彼では、市子を救えなかったでしょう。


母親役の中村ゆりさんも良かったですね。
冷たいように見えて、彼女は市子のことを本当に想っていたと思います。
長谷川へのお辞儀は、話を聞いてくれたこと、これから市子を見つけて、助けてあげて欲しい、という気持ちの表れだったのではないでしょうか。


これから先、長谷川が市子を見つけられるか、それは分かりません。
でも、もし出会えたら、市子の過去も全てひっくるめて、守ってあげて欲しいと願います。
市子が生きやすいよう、何かしらの方法を見つけてあげて欲しい。


この後、市子はまだ生きていくでしょう。
冬子の戸籍を奪って、生きていくのかも知れない。
それこそ、市子の命と引き換えに手にした「戸籍」という名の証、妹の分まで生きてやろうと、生きることに執着するのは、当然のように思えます。

悪魔であろうと、人を殺めようと、彼女はその生にしがみつく。
主人公でありながら、その生き方は決して綺麗事では済まされない。


理由はどうあれ、市子の犯した過去は消えません。
でも、簡単に自分の命を捨てる人がいる世の中で、市子のような生き方は、どう映るのでしょうか。
あんがすざろっく

あんがすざろっく