鎌谷ミキ

52ヘルツのクジラたちの鎌谷ミキのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.5
【救いたいのは彼?それとも彼女?救われたのは彼?それとも彼女?】

[あらすじ]
自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚(杉咲花)ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年(桑名桃李)と出会う。

[レビュー]
フィルマで評価が高く、本屋大賞などの情報のみで鑑賞したら、いろいろ刺激的だった。こんなストーリーとは予告編では思わない…私は泣かなかったけれど、周りはめっちゃ泣いてた。フィルマやってなかったら、見てなかったね。

誰に感情移入するかにもよる。私は割と第三者的にみんな見てたかも。予想よりも重く辛い話だけど、最後はなんだか背中を押された気持ちになる。

人によってはかなりエグられる内容だと思います。私、もしかしてこういう話ばかり見てる?って思っちゃいましたが…
展開が駆け足になってたのは、小説の魅力を詰め込みたかったからかな(しかもオリジナル展開もあったとは)

『八日目の蟬』の成島出監督で。どちらも結果的には泣かなかったけれど、胸を締め付けるようなテーマを描くのがお得意なのでしょう。それはとても感じました。

誰のことかぼかして書きますが(あらすじに書いていても)児童虐待とトランスジェンダーがずっと横たわってる。
主人公の名前はキコですが、キナコと呼ばれたり。アン(餡)とキナコ(きな粉)という例えで、関係を表したり。
キコの現在を描きながら、同時進行的に過去が描かれるのがお見事で。
私たちは今をわかってるから、答え合わせをしていくように、キコを知っていく。切なくなる。苦しくなる…

それを見事に表現されてた杉咲花さんの演技は飛び抜けてよかったですね。泣き顔がね…
そして、志尊淳くん!いやー、前からそんなカラーも出せると思っていたけれど、見事に開花させてた。てか、帰りに思い出してグッときたのは、彼の心情。このタイトルの一人、私は彼が本当に描きたいことなのかなと錯覚したぐらいでした。主役を食う勢いというやつです。

意外な配役として、宮沢氷魚くんがチャレンジしている所なども見逃せない。新たな側面を魅せてましたね。

絶対悪みたいな人物も出てくるけれど「愛してた」というような歪んだ愛情からことを起こしてしまったという人もいるので、そこの描き方は酷くなかった。無関心が一番辛いものね…

具体的にストーリーを追ってもいいんですよ。だけど、本作は意外性だと思っていて。心に傷を負った女性と男の子のストーリーぐらいで前情報はいいかなと。

もうすぐ春休み。大作に埋もれることなく、本作がヒットしてくれることを願っております。『夜明けのすべて』と同じぐらいよかったけど、全くタイプが違うなぁ。比べられない…

[パンフ]980円、40p
買うつもりなかったけど、原作を少し知りたいと思って。多分この手の作品は原作者のことが書いてあると。町田そのこさん、観て泣いてるやん…
シスターフッド(貴瑚と美晴という同級生)の側面かぁ…コアな見方だけど、それもあったね。
意表付かれた!トランスジェンダーや児童虐待などの相談窓口の案内が。監修もいっぱい入ってて、本作のテーマに対する本気度がわかります。そりゃ周り泣くわ…涙枯れたんか、私!?

"深い哀しみの中にいる人を映画で救うことはできないけれど、その哀しみに寄り添うことはきっとできる"成島監督の力強いお言葉です。
リハーサルも本番も100%。演技の引き算はしやすいけれど、足し算はしにくい。その理論からだそうです。あの崩れ落ち方はリアルだった、泣きそうだった。2回もあれをやったのか…尊敬。
鎌谷ミキ

鎌谷ミキ