うっちー

コンクリート・ユートピアのうっちーのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
3.9
新年初の鑑賞。北陸の地震があり、日本の観客にとっては特にリアルな怖さを感じたでしょう。単純なパニック系エンタメを想像していたが、意外にも丁寧さを感じる人間ドラマ〜群像劇&スリラーだった。

まず、マイホームに対する国民的な価値観や団地〜集合住宅への思いを資料映像的に見せたのち、割と唐突に天変地異というか、災害がソウルを襲うシーンへ。崩壊したビルやめちゃくちゃになった道路など、変わり果てた街の様子を再現。このあたりのCG表現はかなりリアル。

そこになぜか一棟、崩壊を免れたマンション。その住人たちは自衛団を組織して、周辺の住民を排除し、廃墟を分け入り、食糧を漁り歩いていたが……というお話。

住民の中の代表に、当初は目立たない印象の中年男性、ヨンソク(イ・ビョンホン)が選ばれる。住民のうちのひと組が若い夫婦(パク・ソジュン、パク・ボヨン)。たぶん国の政府もメディアも機能しなくなってしまったようなカオスの中、自分たちを守るために全体主義的な統制力を強めてゆくヨンソクや住民たち。中でもヨンソクには後ろめたいある秘密があり、余計に虚勢を張り、暴力も厭わなくなってゆく。若夫婦の夫側(ソジュン)は割と温和な公務員だったのが、仲間外れにされたくない一心で、必死にヨンソクたちについてゆこうとする。反対に、看護師である妻は博愛主義的でできる限り人助けをしようとする。このくだりは、追い詰められた状況での人間の強さや弱さを炙り出しているようで面白かった。

『はちどり』のパク・ジフが、登場時間は少ないが、なかなか印象的な存在感を放つ。彼女の存在が、終盤にかけての展開のきっかけになる。

当初予想していたのは、外部からのなんらかの力が団地の運命を左右するのかと思っていたが、少しちがう展開だった。もっと人間らしく、醜い。

ソジュンはいつものキラキラオーラを封印して、ごくごく普通でひ弱そうなキャラに扮していて、またそれが似合っていて新鮮だった。さらに、最近はどんなダメ男役も進んで引き受けている感のイ・ビョンホンもまさに適役。悲しい事情を背負ったおじさん役なのだが、それでもあれだけはちょっと見逃せないなぁ、という印象でした。

ラストの締め方は無難とはいえ、清々しく、希望も感じられた。生きているなら、誰だってここにいていいって……。

なお、ほんのちょっと映った本作監督の実弟、オムテグの登場、嬉しかったです!
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