やた

トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そしてのやたのレビュー・感想・評価

4.5
過去、映画でどのようにトランスジェンダーが描かれてきたかの歴史を当事者と振り返り、問題点を確認する構成。
同じ人間にすることとは思えないくらいの暴力的な差別のオンパレードで呆然としたけど、それを長らく自分も"そういうもの"としてとらえていた事実をきちんと受け止めないといけない、と改めて感じた。

黒人は過度に男性的に、白人女性にとっての脅威として描かれることが多かった→黒人は奴隷制時代に去勢されたことがあった→黒人男性がドレスを着ることは脅威が笑いに変わるということ、なのでウケた、という話は流れとして納得できるだけにあまりにも残酷。

手術や性生活の話ばかり面白おかしく掘り下げようとするのも、差別のせいで雇用機会に恵まれない社会背景があるのにメディアでは説明せずに異質な存在としてトランスジェンダーを描いてきたのも、マジョリティにとって都合の良い存在として扱ってきたことがわかる。

「リリーのすべて」を観た時、かなりショックを受けつつもリリーの苦悩が伝わってきたし色んなことを考えるきっかけにもなったので、「当事者が演じるべきだった」という主張を見た時に「とはいえエディだからこそあの完成度だったのでは」と思っていたけど、
「エディ・レッドメインは自分の中の女性性を演技に昇華させ素晴らしかったが、"その人"を演じられてはいない。あくまで"トランスジェンダーの人"を演じているだけで、トランスジェンダーであることはその人の一面にしか過ぎない」
という指摘がすごくしっくりきた。

セレブの女性らしさを強調するヘアメイクの発端がゲイのメイクアップアーティストで、その影響はどこから来て、という話も興味深かった。

その他、とても印象に残った言葉を忘れないように記録↓
「まずい描写があったとしても、情報源がひとつじゃなくなるのは良いこと(なので色んなトランスジェンダーが描かれる方が良い)」
「暴露という考えが嫌い。私たちに秘密があり明かすべきものだと決めつけてる。いつも相手側の気持ちの方が尊重される」
「異性愛と白人の世界で自分の承認を要求することは大事」
「失うものがないから(すでに仕事は失っているから)本音を言っても得るものしかない」
「自分のことを愛情と尊敬をもってみられるようになりたい」

「人は進化できる」という言葉にとても勇気をもらいつつ、進化していかなくてはと引き締まるような思いにもなった。
日本に生きる日本人で、シスジェンダーで、ヘテロセクシャルである自分がきっと無意識に抱いている差別意識について常に考えて、考え続けて生きていかないといけない。
やた

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