社会のダストダス

青春の反抗の社会のダストダスのレビュー・感想・評価

青春の反抗(2023年製作の映画)
4.5
このクソな世界へようこそ

『返校 言葉の消えた日』くらいから台湾の映画を観る機会が増えてきて、これも何だか観るべきだという気がしていた。直接の関係は無いけど、時代背景的には本作はその後日談のようにもとれる。主演の人はNetflix版のほうのドラマ『返校』に出ている人のようで未見ながらそっちも気になっていた。

長く続いた戒厳令が解除されたあとの1994年の台湾、通っている美術大学の黙従体質に不満を募らせたチーウェイは、表現の自由を訴えるために芸術学科生で結成された学生運動に参加し、学生運動のリーダーであるクァンとその恋人チンに出会う。白熱する抗議活動はストライキに発展し、3人の関係も複雑になっていく。

少し前に観た台湾映画『我、邪で邪を制す』と同様にこれも原題、英題、邦題で結構意味が変わるやつかもしれない。

原題の『青春並不慍柔』はグーグル翻訳すると“青春は優しくない”という意味らしい。

英題の『Who‘ll Stop the Rain』は“誰がこの雨(戦争)を止めるのか”というCCRの1970の曲から。

邦題の『青春の反抗』は作品の内容でいえば学生運動そのものを指したようなタイトルか。

メインの2人がとても画がもつので見入ってしまいました。主役のリー・リンウェイの透明感、今まで台湾女優はワン・ジンちゃん一筋だったけど、これは強力なライバル出現か。もう一人の主役イェ・シャオフェイは中性的な見た目で奥平大兼くんに見える瞬間が何度もあった。

台湾映画って最近観ていた傾向だとほんわか系とソウルライク並みにハードモードの落差が激しいので、題材的には後者かと思って若干身構えて観ていたけど、落ち着いていてとても好みな作風だった。意外にも誰も死なない映画だったので安心です。

戒厳令が解除されて間もない頃ということもあり大学理事や政治家が抗議活動に対してどの程度、敏感に反応するのかというのも当時の情勢でいえば難しい読みだったのかな。思想や表現が抑圧された時代であったとしても、その中で得られた既得権益を守る為だったり、偉い人達も移り変わる世の流れに翻弄されている。

日本や中国、アメリカとの関りで大きな変遷をたどってきた台湾はいまだに多くの国が主権国家として認めていない状態ながら、同性婚が合法で、IT強国だけど、オリンピックでは台湾を名乗れないなど歪な状態にある。言論の自由と、創作の自由、恋愛観の自由のなかで映画のフォーカスが定まらないようにも感じるけど、いずれも根底にはアイデンティティがあるのかな。

映画としても良かったし、たまには真面目に書いてみたいと考える内容だった。