ヨーク

エレクトロフィリア-変異-のヨークのレビュー・感想・評価

3.6
カリコレ5本目。
そしておそらくこの『エレクトロフィリア-変異-』で俺の今年のカリコレは終わりです。あと2~3本ほど観たいのはあったのだが予定が合わずに観ることは叶わなかった。残念。そしてさらに残念なことに夏の新宿でマイナー映画を観られるチャンスだったカリコレは10周年の今年をもって終了らしい。シネコンのスクリーンなんかでは中々かかることがない作品を上映してくれる貴重なイベントだったので惜しい限りである。名前が変わったり多少規模が小さくなってもいいからまたやってほしいものである。頼むぞ、武蔵野館とシネマカリテ。
ちなみに俺がこの映画を観よう! と思ったのはカリコレの上映作品一覧を眺めているときに、落雷に打たれた女性が電流に欲情するようになる、というあらすじを目にしたからでこれは完全にバカ映画に違いない! と思って臨んだのだが、蓋を開けてみると割と真面目な人間ドラマで特に笑うところはなかったです。まぁでも面白かったよ。
お話は今書いたとおりなんだけど、導入のシーンはとある牧場で獣医をやってる主人公が嵐の中牧場から外れた場所で産気づいた牛の元に駆け寄るシーンから始まる。出産するなら畜舎の中でしてくれよという感じだが逆子で母体にも影響がありそうなので獣医たる主人公は雷雨の嵐の中でお産を助けるわけだが、そこで発生した落雷が主人公に直撃。一緒にいた同僚が救急車を呼んで病院へ。そして2カ月ほどの昏睡状態を経て目覚めた主人公なのだが自身の身体には様々な異変が起こっていた…というお話です。
様々な異変、と書いたがこれも先に書いてるようにその中の一つが電流に性的快感を感じるようになる、というものでこれは何か色んな感電プレイを試しながら死と隣り合わせの快楽を求めていくような映画なんだな!? つまりクローネンバーグの『クラッシュ』の電撃バージョンか! と思っていたのだが、これもすでに書いたようにそこまではっちゃけた感じの映画にもならずに割と真面目で淡々とした落雷事故者のその後の生活という感じの映画だったんですよね。まぁそういう意味では思てたんと違うで拍子抜けではあったのだが、それはそれとして別につまらない作品というわけでもなかった。
まぁこれは『クラッシュ』の方にもそのような要素はあったと思うのだが、本作は希死念慮の物語だったのだろうかなと俺は思いましたね。というのも落雷事故から生きのびた主人公はある男に接触するんだけど、その男っていうのが同じような落雷事故のサバイバーを集めた落雷事故被害者の会的なものを主宰している男なんですよ。彼自身も落雷事故の生き残りで、落雷が人体にどのような影響を与えるのかを研究しているのだがその研究の一環として同じ境遇の人たちを集めて互いの体験談なんかを語り合わせてPTSDとなっている事故の恐怖とかをみんなで乗り越えようとしているわけですな。断酒会でしたっけ、依存を脱するためのアルコール中毒の人たちの自助グループみたいなのがあるけど、イメージとしてはそれの落雷被害者バージョンって感じが分かりやすいかもしれない。
んでその落雷被害者の会みたいなサークルでの活動が中盤辺りの主な展開となるんだけど、その会の基本理念はみんなで落雷事故の後遺症とかを乗り越えようねというものなんだけど、主人公が事故後は電流に快楽を感じるようになったという設定にもあるように、どうもみんな大なり小なり落雷事故のときに受けた衝撃を忘れられなくて身体中を電流が走り抜けたときの体験を心の奥底では欲しているのではないかなと思わせる描写があるんですよね。もちろん『クラッシュ』に於けるカークラッシュほど極端な描かれはしないが、みんなどこかで全く比喩ではなくあの雷に打たれたような衝撃をもう一度…と思っている節があるんですよ。そしてそれが快楽を求めるというよりかはある種の希死念慮として描かれていると思うんでうすよね。
直接的には誰も「実は俺もう一度雷に打たれて死にたいんだ」と口にはしないものの、落雷被害者友の会にはそのようなうっすらとした死への憧憬が共有されている感じでその雰囲気が凄く良かったですね。なんか積極的に自殺していこうとかするわけではないし、むしろ生の象徴たるセックスに電流エクスタシーという新たな楽しみが付与されたとも言えるのだけれど、主人公はその快感も楽しみとして受け入れるという感じではなく、どこか生きることへの後ろめたさのようなものを感じてる雰囲気なんですよ。そこにはいわゆる娯楽映画的な面白さはないけど厭世的なダウナー感には分かるわー、となってしまうのである。
また逆に、その希死念慮をうっすらと共有している他者がいるということがある意味では生きる力にもなっているという面も描かれていて中々にしっかりした映画だなと思いましたよ。
ただ、全体的に正直盛り上がりには欠けた。何となく雰囲気は良いのだが、正直間延びするようなシーンばかりだし映画の着地点がどこなのかもよく分からないしでストレートな意味での面白さはあんまなかったですね。まぁ、またかよと言われそうだが、途中重要なシーンで寝てしまったので盛り上がるところを俺が観逃していた説はある。ていうかラストの展開がかなり寝耳に水だったので、そのオチを匂わせるシーンをちゃんと観ていたら良いラストシーンだな…となったのではないだろうか。まぁ寝てたから知らんけど。
とりあえず思ってた感じとは違ったがそれなりには面白かったです。希死念慮と上手く付き合っていくぞ映画としては割りと良いんじゃないでしょうか。
あと最初の方にも書いたけどカリコレ的な映画イベントはこれに懲りずにまたやってくださいよ!
ヨーク

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