やまもとしょういち

坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たちのやまもとしょういちのレビュー・感想・評価

2.8
坂本龍一さんの逝去から丸1年の2024年3月28日、渋谷で観た。

貴重な映像ではあるが、映画でもドキュメンタリーでもない報道特番のようなトーンの作品という印象だった。「坂本龍一はなぜ社会発信を強めていったのか」というテーマ自体が浅いというか、ドキュメンタリーとして作ったのならば、9.11以降に坂本龍一が何を感じ、何に対して危機感を抱き、そして逆にどんなことに注意を払いながら、本気で社会と対峙するようになったのか、ということを踏み込んで描き出してほしかった。

過去のアーカイブ映像を時系列的に並べた以上の意図や意味を見せてほしかったし、むしろそういった故人の活動に対する批評行為を注意深く避けているようにすら見えた。そうなってしまったらドキュメンタリーではない。まあ、これは編集の不足と言うべきかもしれない。ただフラットに伝えることが目的なのであれば、自伝など本人の言葉を読めば済むことだろう(TBSは普段1番見てるテレビ局だけれど、正直なところ音楽や映画に対する繊細な理解や教養が欠けているように感じられて残念だった)。

ただ一方でこの映像が、何十年も先の未来で誰かの目に留まる可能性があることを思えば、それで十分なのではないかとも思う。そういった「作品」に関することを一切抜きにした個人的な体験の話をするならば、上映終了後、あたたかい拍手に包まれた会場にいあわせることができたことは本当によかった。追悼は終わらない。