しゅん

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のしゅんのレビュー・感想・評価

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ロールプレイングゲームじゃん。焦点人物となる青年ヤノーシュは常に他者の依頼によって動き、街の住民達はコマンドを入力しないとセリフを返さない。ヤノーシュの背中から前方を捉えるポジションの多用も含めて、RPGをプレイしているような感覚になる。シーンが進むごとに広場の人数が増えるのとかめちゃゲームっぽい。おそらく、物語類型の基本を押さえつつディスコミュニケーションの感覚を強調した結果、ロープレめいた形式になったのだろう。友人曰く、黙っている男たちが広場にたむろする風景は実際にブダペストで見かけるものらしい。我々にとっては寓話に見えるものが、ハンガリーの人にとってはただの生活、という落差はありそう。群衆がほぼ風景と同じだからか、病院の暴動シーンが一切怖くない。

最初に天体の回転の話から始まる。その後のダンス、叔父が音楽理論の失敗について語るシーン(タイトルはこのセリフからとっている)、「鯨」との遭遇、暴動後の上から下の冷蔵庫へ下がるシーンと、旋回が本作を基調するする動きになっている。これは『サタンタンゴ』や『ニーチェの馬』の長回しにはなかった特徴で、37カットの映画の半分くらいは何かが回っていたように記憶している。固定キャメラはむしろ少ない。極め付けがヘリコプターで、虫の目のように光るライトと真正面から対峙するショットが一番怖い。そして魅了される。ヘリコプターと出会うために、今までこの映画を観ていた気もしてくる。

天体運動と啓蒙と新聞を信奉する青年が、無実のまま破滅する。そう考えると、西洋近代の失敗を寓話したものにも見えるが、それは安易すぎてつまらなくなる。嘘くさいRPG的な感覚がただのリアルと隣り合わせである、という奇妙な状態に身を置く喜びに浸るのが今はいい。映画を観ている間、そんなことを考えていた。
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