ドキュメンタリーとしてストレートに分かりやすい作り、と言うと褒めてる感が出るが裏を返せば観せ方に特に捻りやアイデアがなくて凡庸とも言えてしまうのだが、まぁそんな奇を衒った表現で面白がるような題材じゃないしこれでいいんじゃないかなという感じの『アニマル ぼくたちと動物のこと』でした。
タイトルでも何となく分かるだろうと思うけど動物が大きなテーマになっているドキュメンタリー映画で、作品全体の流れとしては同じ16歳で動物大好きかつ将来への危機感を抱いている少年と少女を被写体としてその二人が世界中の動物学や環境問題などの第一線にいる人物たちの元を訪れ様々な分野の最新の知見を得て今後自分たちの世代がどうしていくべきなのかを考えていく、というもの。ま、最初に書いたようによくある題材だし観せ方自体も特に奇抜ではないオーソドックスなドキュメンタリーですな。
ただこういう作品は4~5年に一回くらいは観て最新の情報をインプットしておいた方がいいよというのはあるのでなるべく多くの人が観るべきものではあろう。なんとこの感想文を書いている現在全国で1館だけしか上映していないのだが…! まぁその内ネトフリとかアマプラに来るかもしれないので機会があれば観てください。
映画の内容はタイトルにアニマルとあるように地球上の動物の大量絶滅がまさに今始まっているのではないか? というところから始まるのだが、問題を追っていくにしたがってそれはどんどんスケールが大きくなって地球規模の環境問題や人類の経済活動に至り、映画の最初では人間は悪! 環境や動物へ悪影響を及ぼしているだけの存在! と思っていた少年少女が、いや…そんな単純な話でもねぇな…となっていく様が過剰にドラマチックではなくて淡々とした感じで進んでいって中々良い感じでしたね。もちろん本作は明らかに動物愛護や環境保護を最優先すべきだろという立場の元で製作されているので、環境を壊しながらも生きていくしかない人間たちの姿を映しながらも完全にフェアな立場ではない目線で両者を描いているのだが、でもそこまで極端に説教臭いという感じもなくてそこも割とよかったなと思いましたね。
食用の兎をブロイラーのように育てている養兎? 事業に従事しているおじさんなんかは作中でも特に印象が強いとは思うけど、こんな奴許せねーよなー! 肉食なんかするべきじゃないよなー! というところまではいかずに、こういう現実がありますという程度に留められていたのは中立な視点を保とうというところはあったのではないだろうか。まぁ明らかに環境に負荷を与える側には反対する立場の映画ではあるのだが、あんまりヒステリックに主張するという感じでなかったのは主人公の少年少女が会いに行く最前線の大人たちの中にクレール・ヌヴィアンという作家兼海洋保護団体の代表とかエロワ・ローランというパリとスタンフォードの大学で経済学を教える教授といった人たちがいて、彼らが非常にクレバーで一歩引いた目線から動物や環境保護の問題に取り組んでいたからというのが大きいと思う。彼らが言うことは結構身も蓋もなくて、環境保護活動を実際に行うにはガンガンロビー活動をして環境問題に関心のある政治家を議会に送り込むしかない。または人間というのはどこまで行ってもエコノミックな動物なので経済成長というものを追いかけることはやめないが、それが数値化されているとされるGDPとかに実質的な意味はあるだろうか? それとは別の指標、言うならばGDPが増えるという意味での経済成長とは違う価値と物語が必要なのではないか? ということなのである。それらは本当に見も蓋もない言い方をすれば、エコは儲かる、というシステムと価値を創出するということなのだと思う。ここ数年でよく聞くようになった“持続可能”という概念はそういうことも含めているのだろう。
要は現在主流である社会システムはこのままではヤバイというのが目に見えてきているのだが一気に全てを変えることなど到底できないから徐々に方向転換するしかないのだが、そのためには経済的な豊かさや消費だけが人生の目的ではないという新たな価値の創出と、そういう価値を実現させることが経済的な豊かさにつながるという一見アンビバレンツに思えるものを両立させられるようにするしかないのである。どうやってそれをやるのかは俺には分からん。でも目指すべきはその方向性だよなーっていうのが16歳の子供の目を通して描かれていて、それは面白かったですよ。二人がどんな大人になっていくんだろうかと思っちゃいますね。もちろん本作の中でそれらの答えが出るわけではないんだけど。
まぁそういう作品なので、そこまで超すげぇ! っていうドキュメンタリー映画ではなかったけどやっぱ多くの人の目に触れてほしい映画ではありましたよ。個人的には動物行動学者のジェーン・グドールのパートがよくて、若かりし日の彼女とチンパンジーの映像でちょっと涙ぐんでしまった。チンパンジーとか超が付くほど凶暴なサルのはずなのに! 動物好きなら一見の価値はあると思います。面白かった。